ボードゲームは、遊びながら多くの知育効果をもたらす優れたツールです。
論理的思考や問題解決能力、コミュニケーションスキル、忍耐力や集中力、計算能力などを高める効果があるといわれています。
ゲームを選ぶにあたっては、ゲームの数的要素に注目することが重要です。
数的要素の多いゲームは、一般的な知育効果に加えて、子どもの数的発達をより効果的にサポートするからです。
この記事では、4歳児の数的発達に効果の高いボードゲームの形態や遊び方について解説します。
また、5,6歳児の数的発達を効果的にサポートするボードゲームを厳選して紹介します。
ボードゲーム(すごろく)のメリット
サイコロやルーレットを使ってコマを進めるボードゲーム(すごろく)は、子どもの数のスキルの発達を促すのに非常に有益な遊びです。(たとえば、01, 02, 03)
この種の遊びは、コマを進めるとき、計数(カウンティング)を用います。
また少し複雑なものになると、お金やポイントで勝ち負けを競うなど、計算や数量の比較といった数的要素も入ってきます。
すなわち、後の算数の成績の強力な予測因子である計数や計算スキルの進展を(04)、より効果的に促すことができます。
また、親子でこの種の遊びをすると、ほかの多くの遊びよりも、数に関する発話が頻繁に引き出されることがわかっています。(05)
子どもの数の概念の発達は、親の数的発話の質と量にかなりの部分を依存しているため、この種のゲームを親子ですることは、とても有益な時間となります。(たとえば、06, 07, 08)
はじめてのすごろく ~ 4歳児のすごろく遊び
推奨されるすごろくの形態
4歳ぐらいの子どもの数的能力の発達に効果が高いとされるボードゲームの形態は、マス目に1から順に番号が振ってあるすごろくタイプものです(できれば左から右に延びる直線形のものがよい)。
この年齢では、マス目に番号がないものや円形(循環型)のものよりも、後の算数の成績の予測因子である「数字の大きさ比較」や「数直線推定※」スキルを向上させる効果が大きいことがわかっています。(01, 02)
※ 数直線推定スキル:目盛りのない数直線上に正しく数字を配置できるかによって測られる。
マス目に数字があることの主なメリットとしては、次の二つがあげられます。
- 数字を覚えながら、数えられる数を20、30・・・と伸ばしていくことができる。
- マス目の数字を利用して、計数や計算方略の最初の進展をはかることができる(詳しくはこのあとで解説します)。
したがって、すごろくを始めるのタイミングとしては、数が10以上数えられるようになり、数字を少し覚えたぐらいの段階がよいでしょう。
ここで、先ほど直線形のものがよいと言いましたが、そのような形態のものは、日本ではほとんどお目にかかれないので、マス目に番号が振ってあるものか、マス目かマス目の外に番号が書き込めるものを選んでおけばよいでしょう。
たとえば、こんなやつです。
時間のある方は、既存のすごろくを自分で直線形に作り直すという手もあります。
4歳児ができるすごろくは、どうしても単純なものになってしまうので、飽きるのも早いです。
そのため、個人的には、無料のものをいくつかダウンロードして利用するのがよいかと思います。
数的スキルの向上に効果的なすごろくの遊び方
数字すごろくの遊び方としては、カウントスキル、計算スキルの向上を促すために、コマの進め方に工夫をします。
たとえば、サイコロを振って「2」が出たとき、普通は、「いち、に」と言いながらコマをトン、トンと2つ進めます。
これに対して、僕が推奨しているやり方は、たとえば、コマが「5」のマス目にあって、2つ進めるとき、マス目の番号にしたがって「ろく、なな」と言いながらトン、トンと2つ進めます。
また、「7」のマス目に「3つもどる」と記されていたなら、同様に「ろく、ご、よん」と言いながら、コマをトン、トン、トンと3つ戻します。
なぜこのようにするかというと、「数え足し」および「数え引き」と呼ばれる計算方略の下地をつくるためです。
幼児は最初、カウント・オールという方法でものを数えます。
たとえば、3に2を足すとき、実物があるときは、3個に2個を合わせて、「いち、に、さん、よん、ご」とその全部を数えます。
実物がないときは、まず片方の手の指を3本立てて、次にもう片方の手の指を2本立ててから、5本の指を数えます。
それが次の段階になると、3をセットしてそこに2を足す、という方法で数えるようになります。
具体的には、まず片方の手の指を3本立てて「さん」と言ったあと、続けて残りの指を順に立てながら「よん、ご」と言って数え足します。
たとえば、5から2を引くとき、実物があるときは、5個から2個を取り除き、残った個数を「いち、に、さん」と数えます。
実物がないときは、指を5本立てたあと、そのうちの2本を折り畳み、残った指の本数を「いち、に、さん」と数えます。
それが次の段階になると、5から「よん、さん」と数え引くようになります。
マス目の番号を唱えながらコマを動かすやり方は、このようなカウント方略の基礎をつくる狙いがあります。
5~6歳児に適したボードゲームとは?
幼児期の算数で、最終的な目標になるのは、就学までにより高度な数体系の知識とスキルを身につけることです。
高度な数体系の知識とは、簡単にいうと10進法の理解です。
スキルレベルでいうと、たとえば、お釣りも含めて簡単なお金のやり取りができるとか、足し算や引き算で5や10をまとまりで扱うと計算しやすいことを理解しているとか、そういったことをいいます。
そこまで到達すると、就学後、算数の学習が順調に進んでいく可能性が断然、高くなります。
(たとえば、04, 09)
したがって、幼児期も後半に入ったら、日常の生活により高度な数量のやりとりを取り入れ、数的能力をより高いレベルに引き上げていく必要があります。
ボードゲームは、トランプ遊びやオセロゲーム、買い物や料理などとともに、数的能力をより高いレベルに引き上げる効果的な手段の一つです。
幼児後期のボードゲーム選びのポイントは、次の二点です。
- 足し算やひき算などの要素がどれぐらい入っているか
- そのレベルが子どもの数的発達の段階に合っているか(現時点の能力よりも少し難しいレベルのものが望ましい)
ここでは、その辺りのことを踏まえて、おすすめのボードゲームをいくつか紹介しておきます。
「モノポリー ジュニア」は、物件を購入して賃料をやり取りしながら所持金を競うゲームです(循環型ですが、この段階では特に気にしなくてもよいでしょう)。
サイコロ1個を使用し、自分の購入した物件のマス目に他のプレーヤーが止まると賃料を貰い、自分が他のプレーヤーの物件のマス目に止まると賃料を払います。
物件の価格、賃料は1~5M(単位はモノポリー)、賃料は特定の条件で2倍になるので、1~10Mの範囲でお金のやり取りが発生します。
したがって、基数を理解し、数字をある程度覚えたころ(目安は、4歳後半~5歳)に導入すると、基数を扱うスキルの発達や倍数の概念理解を促進することができます。
一方、お釣りが発生しないのと、数の合成分解を使用しないことから(貨幣が「1M」しかない)、数的発達という目的では、個人差はありますが、6歳では難易度が不足します。
ただし、長く親しまれているゲームだけあって、ゲーム自体が面白いので、子どもは比較的長く(6歳以降も)楽しむことができます。
「ジャングルで算数すごろく」は、「1から6」の数字のサイコロ2個と、「+」「-」記号の書かれたサイコロ1個を使い、足し算または引き算をして、計算結果の数だけコマを進めるゲームです。
ルールがシンプルなので、小さなお子さんでもすぐに楽しむことができます。
記号計算を遊びとして導入できるのがこのゲームのメリットです。
特に、数字が表す大きさを完全に理解し、数え足しや数え引き、数の合成分解を身につけている段階(目安は、5歳~6歳前半)で取り入れると効果的です。
なお、就学前なので、「+」や「-」の意味を教える必要があります。
「こどもお金すごろく」は、お金の使い方や知識を学べるすごろくゲームです(紙製で、固いボードではありません)。
表と裏で2種類の内容が楽しめます。
「お買い物すごろく」では買い物の基本を学び、「キッズマネーすごろく」ではお金の扱いをさらに深く学べるようになっています。
ゲームでは、サイコロ1個と50円、100円、500円、1000円のチップ、株券などを使用します。
コマを進めながらお金を貰ったり使ったりして、最終的な所持金の額を競います(株券などは最後にお金にかえます)。
手持ちのお金が増えたり減ったりするので、その金額を把握しながらゲームを進めることで、計算スキルを磨くことができます。
10進法を理解し、簡単な2桁の計算(たとえば、30+20)ができるようになったころ(目安は、6歳~7歳前半)に取り入れると効果的です。
楽しく遊びながら、計算力とお金の大切さを学べる一石二鳥のゲームです。
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子どもの学びに関する多くの学術的知見を持っています。
また、6歳児から中高校生まで勉強を教えた経験があり、学力に与える学習の効果は、年齢が低いほど大きいことを痛感しています。
これらを生かして、効果的で再現性の高い子どもの学びのあり方や方法を提案していきます。よろしくお願いします。