この記事は、「幼児の算数:4歳までにやっておくこと」の続編です。
前編では、以下の図の「基数を理解する」までを解説しました。
今回は、そのあとのステップについて解説します。
より高度な数の知識とスキルの習得を目指す:就学までのステップ
基数を理解すると、様々な数的活動を行うことが可能になってきます。
ここからは、数的な活動の幅を広げ、就学に向けて、より高度な数体系の知識と数を扱うスキルを身につけることを目指します。
1.数字を覚える
「基数の理解」の次の目標は、数字の大きさを理解することです。
子どもが基数を理解したあと、早い段階で数字が表す大きさを理解することは、重要な意味をもっています。
数字の大きさを理解すると、カードゲームやボードゲームで遊べるようになるなど、数的活動の範囲が格段に広がり、数的発達が加速するからです。
子どもが数字をどの程度理解しているかは、数字の大きさ比較や、目盛りのない数直線(両端の0と10だけある)に数字を配置するタスクによって測ることができます。
この理解度は、基数の理解と就学後の算数の成績を仲介する重要な因子であることがわかっています。(たとえば、01, 02)
数字を覚える機会をつくる
数字の表す大きさを理解するためには、基数を理解することと、数字を覚えることの二つが達成されなければなりません。
この二つが達成されると、両者のマッチングが始まります。
そのため、子どもが基数を理解している間にも、数字を覚える機会を設けてあげる必要があります。
具体的には、お風呂に数字の表を貼って一緒に読む、数字がでてくる絵本を一緒に読む、数字をテーマにしたおもちゃで遊ぶ、といった機会をつくります。
また、普段の生活の中でも、身の回りの数字にできるだけ触れさせるようにします。
たとえば、「(時計の)長い針が5のところにきたら、出発するよ」とあえて言ったり、「(リモコンの)8を押してくれる?」とあえて頼んだりします。
最後に仕上げとして、トランプ遊びの「神経衰弱」で、数字の記憶の定着をはかっておくとよいでしょう。
このようにして、まずは10までの数字を覚えます。
2.数字の大きさを理解する
基数を理解し、数字を覚えると、両者のマッチングが進みます。
このタイミングで直接的な教示を行うと、効率的に数字の大きさの理解を促すことができます。
その方法としては、
まず、子どもの前におはじきの山をセットします。
次に、紙に書いた数字をランダムに見せて、その個数を取り出してもらいます。
子どもがスムーズに取り出せなかった場合は、一緒に数えながらその個数を取り出し、数字とマッチングさせます。
数字と個数のマッチングの練習に使える教具です。
幼児期を通して数の学びに活用できます。➔ 活用のし方はこちら
数字の大きさ理解に役立つトランプ遊び
数字の大きさをある程度理解した子どもに推奨されるのが、「戦争」というトランプ遊びです。
このゲームを親子ですると、親から数に関する発話、特に数の大きさに関する情報が、頻繁に引き出されることがわかっています。(03, 04)
また、数の理解の遅れた子どもたちに、一定期間このゲームをさせたところ、数の大きさ比較のパフォーマンスが大幅に向上し、先行する子どもたちとの数の知識の差がほとんどなくなったという統計的結果が得られています。(05)
3.序数を理解する
子どもの数の概念の形成は、基数の理解にはじまり、数字が表す大きさの理解、そして序数の理解へと横断します。
序数まで理解が進むと、日常の数に関するたいていのやりとりが可能になります。
序数の理解の促し方
序数の理解は、子どもが基数を理解したあと、日常の様々な機会を利用して、少しずつ促していきます。
たとえば、ものの所在を示すときは、「上から二段目にあるよ」、「左(こっち)から三つ目の絵本をとって」などと、並びの順で示します。
このとき、子どもが「二段目」や「三つ目」をすぐに特定できないようなら、「一段目、二段目」、「一つ目、二つ目、三つ目」と一対一対応で指し示して、「二段目」や「三つ目」の理解を促します。
ほかにも、絵本を読み聞かせるときに、挿絵を見ながら、
親 「○○はどこにいる?」
子ども「ここにいるよ」
親 「ほんとだ、左から3番目にいるね」
といった会話を生成したり、バスや電車に乗ったときに、「三つ目で降りるよ」などと言って、途中のバス停を「一つ目」、「二つ目」と数えたりします。
また、序数をある程度理解した子どもには、次のような直接的な指導も有効です。
たとえば、クレヨンや色鉛筆のケースを開け、左端か右端を指して、「こっちから四番目は何色?」などと尋ねます。
このときも、「四番目」をすぐに特定できないようなら、一緒に「一番目、二番目、三番目」と数えて、「四番目」の理解を促します。
4.計数と計算のスキルを向上させる
序数まで理解したら、就学に向けて、数を扱うスキルを向上させていく段階です。
前にも言いましたが、就学時のより高度な数体系の知識とスキルは、学業全般で大きなアドバンテージをもたらします。
より高度な会話ややりとりを取り入れる
日常の数に関する会話ややりとりは、数的能力の発達に合わせて、より高度な内容にしていきます。
いくつかの例をあげておくと、
- キャンディーを「10個あげるね」と言ってから、6個手渡し、「あと何個?」と尋ねる。
- キャンディーを6個手渡し、「二人で分けてね。一人何個ずつかな?」などと言って分配させる。
- 友達と遊んでいる子どもに、「一人2個ずつあげるね。全部で何個要るかな?」などと尋ねる。
- ピザを8等分してもらう。
- 飲料をグラスに八分目までそそいでもらう。
- 「5分待っていてね。長い針が3のところにきたら出発するから」などと言って5分待たせる。
- 「あとどれぐらい(時間が)かかるかな?」と尋ねて、時間を見積もらせる。
- 「3時になったらおやつだよ。あと何分かな?」と尋ねる。
- 「あと10回やったら終わりにしようね」と言ってから、途中で「あと何回?」と尋ねる。
このようにして、身の回りの様々な機会を数量のやりとりに利用していきます。
また、扱う数も少しずつ増やしていき、就学するころには、10以上の数のやりとりができるようにしておきます。
親が10以上の数を使用することは、5,6歳児の数的能力の発達に効果的に作用します。(06)
遊びや生活活動を通じて数的発達を促す
子どもは、基数を理解し、数字の大きさを理解すると、様々な数的活動に従事できるようになります。
遊ぶことのできるカードゲームやボードゲームの種類は一気に増加します。
料理や買い物のような数量を扱う活動も徐々に可能になっていきます。
幼児から小学校低学年の子どもの算数のスキルは、これらの数的活動の経験と密接にかかわっていることがわかっています。(たとえば、07, 08)
子どもの数的能力の発達を効果的に促す遊びや活動については、こちらの記事をご覧ください。↓↓↓
親に求められるのは、そういった遊びや活動の機会をできるだけ多く設け、その相手をすることです。
ここでいう「相手をする」とは、その遊びや活動を一緒に行うことだけではありません。
子どもに数に関する発話や教示を行うことが含まれます。
たとえば、トランプの枚数を数えるとき、10枚と5枚をまとめるように助言することは、数体系の理解を深め、数を扱うスキルを向上させるのに極めて効果的です(18枚なら、「10枚が一つと、5枚が一つと、残りが3枚で18枚」と数える)。
遊びや活動自体の効果に、親からの有益な発話や教示が加わると、その効果はさらに強力になります。
まとめ
●子どもが基数を理解したら、できるだけ早い段階で、数字の大きさを理解することを目指す。数字の大きさを理解すると、数的活動の幅が飛躍的に広がり、数的発達を加速させることができる。
●その段階にきたら、親はそれまでにも増して、多くの数的活動の機会を提供することが求められる。また、数に関する発話や教示を積極的に行っていくことも重要である。
●そうやって、就学までにより高度な数体系の知識と数を扱うスキルを身につけておくと、学業的にも職業的にも大きなアドバンテージを得ることができる。
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子どもの学びに関する多くの学術的知見を持っています。
また、6歳児から中高校生まで勉強を教えた経験があり、学力に与える学習の効果は、年齢が低いほど大きいことを痛感しています。
これらを生かして、効果的で再現性の高い子どもの学びのあり方や方法を提案していきます。よろしくお願いします。