この記事では、百玉そろばんを使った「たし算」と「ひき算」のやり方を解説します。
この記事がカバーする計算の範囲は、次のとおりです。
・1けたの数 + 1けたの数(繰り上がりなし)
・1けたの数 + 1けたの数(繰り上がりあり)
・1けたの数 - 1けたの数
・2けたの数(11~18)- 1けたの数(2~9)(繰り下がりあり)
※ 使用する百玉そろばんは、5玉づつ色分けされているものを推奨しています。ここで採用している計算方略のいくつかは、その特性を利用しています。
繰り上がりのないたし算
基本のたし方
4+3の場合
その1 数えたし
➊ 4個と3個をセットする。

➋ 上の4個に、下の3個を1個づつ加える。

「まず、1個を上に持っていくよ」などと言って、下の玉を1個右に寄せ、続けて上の右の玉を1個左に寄せ、「ご」と唱える。
同様に、残りの2個を順に移動させ、「ろく」、「なな」と唱える。
慣れてきたらこの手順を連続的に行う。➔「ご、ろく、なな」と数え足して「7」
その2 5のまとまりを意識した方略
➊ その1と同じ
➋ 上の4個に、下の3個のうちの1個を加え5個にする。

「まず、1個た足して5」
➌ 残りの2個を加える。

「残りの2個を足して7」
※ ➋の時点で、すでに5個と2個の形になっているので、➌の操作は省略してよいです。➋の形から「5と2で7」と、個数を把握できます。

「5のまとまりを意識した方略」は、初期の数構成の理解の促進、計算方略の拡張の点で優れています。「数えたし」の途中で➋の形になるので、そこからこの方略に導いていきましょう。
その3 数の構成を意識した方略
➊ その1と同じ
➋ 上の4個に、下の3個を加える。

「4と3で7」(個数は玉の色から視覚的に把握する)
百玉そろばんの足し算の操作について、最初は、「なぜ上と下の両方の玉を動かすのだろう?」と疑問に思う子どもがいます。
そのような場合は、右側半分をハンカチなどで隠すと(教示者は裏側から操作する)、下の玉が上に移動するように見えるので、理解しやすくなります。
どちらか一方の数が5のとき
5+3の場合
➊ 5個と3個をセットする。

(この形のまま)「5と3で8」
※ 最初から「5個と3個」の形になっているので、わざわざ動かす必要はありません。「基本のたし方 その2」と同じです。
小さい数に大きい数を足すとき
2+7の場合
その1 前の数に足す(上の列に足す)
➊ 2個と7個をセットする。

➋ 上の2個に、下の7個を加える。

➔(1個づつ移動させながら)「さん、よん、ご、ろく、なな、はち、きゅう」と数え足して「9」
または、
(まず3個を移動させて)「5」*、(残りの4個を移動させて)「9」
または、
(7個をまとめて移動させて)「2と7で9」
* この段階で、「5と4で9」と計算してよいです。→「基本のたし方 その2」を参照。
その2 大きいほうの数に足す(下の列に足す)
➊ その1と同じ
➋ 下の7個に、上の2個を加える。

➔(1個づつ左に寄せながら)「はち、きゅう」と数え足して「9」
または、
(2個をまとめて寄せて)「7と2で9」

2に7を足すのと、7に2を足すのと、どちらが容易か、比較させてみましょう。
前にたすかか後ろにたすか?
「被加数 < 加数」のとき、後ろにたすメリットとしては、次の二つがあげられます。
- 大きい数に小さい数を足すほうが、計算が容易です。
特に、1+6、2+6、3+6、1+7、2+7、1+8のように、二つの数の差が大きい場合は、それが顕著です。
しかし、3+4のように二つの数の差が小さい場合は、それほどでもありません。 - 2色の百玉そろばんでは、大きい数に小さい数を足した方が、視覚的に数の構成を理解しやすいというのがあります。
たとえば、先ほどの2+7の場合、2個に7個を加えるよりも(左図、スマホでは上図)、7個に2個を加えるほうが(右図、スマホでは下図)、「7と2と9」の関係、あるいは「5と2と2と9」の関係が理解しやすいです。


デメリットとしては、玉の移動が式の順と逆になることがあげられます。
私の場合は、まずは、1けたのたし算の全ての数のパターンに対応できるように、「その1」の方法で指導します。それである程度計算できるようになったら、「その2」方法を取り入れ、選択的に使えるようにしていきます。
繰り下がりのないひき算
基本のひき方
7-3の場合
その1 数えひき
➊ 7個と3個をセットする。

※ 下の列は、ひく数(あといくつ引くか)を確認するためのものです(図は、3個引くことを表しています)。
➋ 7個から3個を1個づつ取り去る。

「まず、1個とるよ」などと言って、7個の端の1個を右に寄せ、「ろく」と唱える。下の列の玉も、引いた分は右に戻しておく。
同様に、あと2個を順に移動させて、「ご」、「よん」と唱える。
慣れてきたらこの手順を連続的に行う。➔「ろく、ご、よん」と数え引いて「4」
その2 5のまとまりを意識した方略
➊ その1と同じ
➋ まず、2個を右に移動させて5個にする。

「まず、2個取って5」
➌ 残りの1個を右に移動させる。

「残りの1個を取って4」
その3 数の構成を意識した方略
➊ その1と同じ
➋ 7個のうちの3個を右に移動させる。

(玉の個数を視覚的に把握して)「4」
5をひくとき
8-5の場合
「8」を「5」と「3」に分解し、5を取り除きます。「基本の引き方」でもよいのですが、こちらのほうがシンプルです。
➊ 8個と5個をセットする。

➋ (5個を取る操作として)8個を5個と3個に分ける(切り離すだけ)。

「(赤い玉を指して)ここに5個のかたまりがあるけど、動かせないからこうするね」などと言って、色の境界で切り離す。➔(青い玉を見て)「3」
※ 赤の5個のまとまりに注目したやり方です。玉の動きが実際の計算と逆になりますが、最初は、赤の5個を手で隠すと、子どもは理解しやすいです。

繰り下がりのないひき算で5を引くときは、引かれる数を「5といくつ」に分解すると、容易に答えを導き出せます。暗算も同じです。
ひく数とひかれる数の差が小さいとき
9-8の場合
ひく数とひかれる数の差が小さいとき(差が1か2、あるいは3)は、上列と下列の玉を相殺させるやり方が合理的です。操作手順は「5をひくとき」と同じです。
この方略は、補加法や個数差理解につながります。
➊ 9個と8個をセットする。

➋ (8個を取る操作として)8個と1個に分ける(切り離すだけ)。

(青い玉を見て)「1」
繰り上がりのあるたし算
基本のたし方
8+4の場合
➊ 8個と4個をセットする。

➋ 上の8個に、下の4個のうちの2個を加えて10個にする。

「上に2個持っていくよ」と言って、下の玉を2個右に寄せ、次に上の右の玉を2個左に寄せる。➔「10と2で12」
どちらか一方の数が5のとき
5+7の場合
「7」を「5」と「2」に分解し、5と5を合わせて10にします。「基本の引き方」でもよいのですが、こちらのほうがシンプルです。
➊ 5個と7個をセットする。

(この形のまま)「10(5と5)と2で12」
※ 最初から「10個(5個と5個)と2個」の形になっているので、わざわざ動かす必要はありません。

一方が5個のときは、5のまとまりどうしを足すことで、容易に答えが導き出せます。暗算も同じです。
6+6,6+7,7+6,7+7の場合
7+6の場合
その1 基本の足し方
➊ 7個と6個をセットする。

➋ 上の7個に、下6個のうちの3個を加えて10個にする。

「(10と3で)13」
その2 5のまとまりを利用する方略
4個まではサビタイジング(視覚的な個数の把握)が可能なので、「5のまとまり」にならない端数の合計が4以下のときは、「10」と「いくつ」で考えるのが合理的です。
➊ その1と同じ
➋ (➊の形のまま、または赤玉と青玉を少しだけ切り離す)

「10(5と5)と3(2と1)で13」

5の端数(青い玉の個数)の合計が4以下のとき(6+6,6+7,7+6,7+7)は、5のまとまりどうしを足すことで、容易に答えが導き出せます。暗算も同じです。
小さい数に大きい数を足すとき(「被加数 < 加数」のとき)
3+9の場合
その1 前の数に足す(上の列に足す)
➊ 3個と9個をセットする。

➋ 上の3個に、下の9個のうちの7個を加える。

「(10と2で)12」
その2 大きいほうの数に足す(下の列に足す)
➊ その1と同じ
➋ 下の9個に、上の3個のうちの2個を加える。

「(2と10で)12」
※ 「その1」のように、「A(被加数)+B(加数)」のBを分解してAに足すやり方を「加数分解」、「その2」のように、Aを分解してBに足すやり方を「被加数分解」といいます。

足し合わせる数のうしろの数が大きいときは、その2の「被加数分解」が有効な場合が多いです。どちらがやりやすいか、2つの方法を比較させてみましょう。
繰り下がりのあるひき算
基本のひき方(減減法と減加法)
14-8の場合
その1 減減法
➊ 14個と8個をセットする。

※ 3列目は、引く数(あといくつ引くか)を確認するために設けています。
➋ まず、端数の4個をとって「10」にする。

➌ 残りの4個をとって「6」。

その2 減加法
➊ その1と同じ
➋ 上の列の10個から8個をとる。

「2と4で6」
減減法か減加法か?
繰り下がりのある引き算で、減減法を用いるか、減加法を用いるかは、数の組み合わせしだいです。
たとえば、13-4なら減減法、11-9なら減加法、14-8ならどちらでも大差ない、という判断になるかもしれません。
13-4の場合は、3と4の差が1なので、実質「10-1」(減減法のプロセス)であることが瞬時に判断できます。
百玉そろばんでも、減加法で「(10-4)+3 → 6+3」の形にするよりも、減減法で「10-1」の形にするほうが個数の把握が容易でしょう。
11-9の場合は、10と9の差が1なので、実質「(10-9)+1 → 1+1」(減加法のプロセス)であることが瞬時に判断できます。
百玉そろばんでも、上列の左に寄せた10個のうちの1個だけを残して、ほか全てを右に寄せるだけで、簡単に「1+1」の形がつくれます。
ただし、この判断は主観に基づきます。
繰り下がりのあるひき算の全パターンを10人にやらせたら、どの計算に減減法を用いるか、また減加法を用いるか、全てが一致する人はいないでしょう。
一般的な傾向はありますが、「これが正解」というのはありません。
その都度試して、どちらがやりやすいか比べてみることが大事です。
このように、「方略を比較して、よりよい方略を選択する」ことを習慣的に行っていくことは、数学に必要とされる「ナンバー・センス」を育むことにつながります。
子どもの学びに関する多くの学術的知見を持っています。
また、6歳児から中高校生まで勉強を教えた経験があり、学力に与える学習の効果は、年齢が低いほど大きいことを痛感しています。
これらを生かして、効果的で再現性の高い子どもの学びのあり方や方法を提案していきます。よろしくお願いします。