幼児期にインフォーマルな算数が十分に施されているかどうかが、子どもの学力に大きく影響することがわかっています。
この記事では、知育の一環として行うインフォーマル算数について、わかりやすく解説していきます。
インフォーマル算数とは
幼児は、日常の生活や遊びの中で、ものを数えたり、数量や大きさを比べたり、数を合計したりすることを学びます。
このような実践を通じて身につける算数をインフォーマル算数といいます。
本格的な算数の学習に入る前に、インフォーマルな活動を十分にやっておくことは重要です。
初期の体系的な数の知識は、インフォーマルな活動から得た知識を、フォーマルな方法(直接的な教示や教材学習など)で整理、補完することで整えられるからです。
また、数や図形を扱うセンスは、インフォーマルな活動なくして身につけることはできません。
幼児は、家庭でのほとんどの時間を親のもとで過ごします。
その時間にどんな活動や会話、やり取りをするか、それが算数が得意な子どもに育つかどうかの最初の分岐点になります。
インフォーマル算数で育むべき3つの能力について解説
インフォーマル算数では、主に「数」、「空間」、「パターン」の三つを扱います。
これらを扱ったり、認識したりする能力 ─ すなわち、「数的能力」、「空間認識能力」、「パターン化能力」は、いずれも算数の成績を予測する重要な因子として特定されています。(たとえば、01, 02, 03, 04, 05, 06)
1.数的能力
数的能力とは、ものを数えたり、数量を比較したり、数を足したり引いたりする能力をいいます。
幼児期の数的能力の発達には、親の数に関する発話と数的な要素のある遊びや活動が非常に大きな役割を果たしていることがわかっています。(たとえば、07, 08, 09, 10, 11)
就学時の算数の能力は、これらのインフォーマル算数の質と量によって、だいたい決まってしまいます。
そのため家庭では、次の二つを幼児期を通して実践することが求められます。
- 普段から様々な機会を利用して、数量に関する発話や働きかけをする。
(その方法については、こちら記事をご参考ください ➔ 幼児の算数:4歳までにやっておくこと、幼児の算数:4歳から就学までにやっておくこと) - 親子で数的な要素のある遊びや生活活動をする機会をできるだけ多くつくる。
数的な要素のある遊びや生活活動としては、次のものがあげられます。
ほかにもたくさんありますが、科学的に効果の実証されたものを中心に、網羅性を考えてピックアップしてみました。
遊び・活動の種類 | 効果的な時期 | 数的能力に対する主な効果 |
---|---|---|
トランプ(神経衰弱) | 4歳ごろ | ・数字の記憶の定着 ・カウントスキルの向上(10枚と5枚をまとめるカウント方略など) ・差の概念(どちらが多いか)の理解 |
トランプ(戦争) | 4歳~5歳半 | ・数字の大きさの理解 ・カウントスキルの向上(10枚と5枚をまとめるカウント方略など) ・差の概念(どちらが何枚多いか)の理解 |
トランプ(七並べ) | 4歳半~5歳 | ・序数(数字が並びの順番を表すこと)の理解 |
すごろく ボードゲーム | 4歳半ごろ~ | ・発達の段階に合ったものを選択することで、様々な数的スキルの向上が期待できる |
オセロ | 5歳ごろ~ | ・数学的思考力の向上ー「ここに置いたらどうなる」(順思考)、「角をとるにはどうする」(逆思考) ・差を求めるスキルの向上ー「こっちに置くほうが2枚多くめくれる」 |
料理 | 5歳ごろ~ | ・掛け算・割り算の基礎となる概念の理解ー「2人分で大さじ1だから4人分だと…」、「大さじ2分の1」 ・量の数的表現の理解 |
買い物 | 6歳ごろ~ | ・二桁以上の足し算スキルの向上ー「合わせていくらか」 ・二桁以上の引き算スキルの向上ー「あといくら分買えるか」、「おつりはいくらか」・上記について、特に、概算スキルの向上 |
トランプ(ブラックジャック) | 6~7歳 | ・足し算スキル(繰り上がり計算)の向上 ・引き算スキル(補数を求める方略)の向上ー「あといくつで21になるか」 |
なお、2~3歳では、お風呂で数を唱えたり、お風呂に数字の表を貼って読んだり、目の前にあるものを「いち、に、さん、…」と数えたり、そういった活動が中心となります。
子どもが基数(集合の要素の数)を理解し、数字を覚えたら、上の表のような遊びや活動が段階的に入っていくことができます。
2.空間認識能力
空間認識能力については、こちら↓↓↓の記事をお読みください。
空間認識能力は、子どもの将来にとって重要な能力の一つです。知育の中でも、特に重視すべき能力といって間違いないでしょう。
空間認識能力の発達には、数的能力と同様に、空間認識をともなう遊びと親の空間に関する発話が重要な役割を果たしていることがわかっています。(たとえば、12, 13, 14)
そのため家庭では、次の二つを幼児期を通して実践することが求められます。
- 子どもの日常の活動の中に空間認識を必要とする遊びをたくさん取り入れる。
- そのような遊びを通じて、親子で空間に関する会話ややりとりをたくさんする。
(➔ 「空間言葉の種類」)
空間認識能力は、トレーニングによって鍛えることもできますが(たとえば、15, 16, 17, 18)、空間遊び自体がトレーニングのようなものなので、それ以外に何か特別なことをする必要はありません。
空間認識能力の発達に効果のある遊び・玩具としては、次のものがあげられます。
これらだけで、ほとんどの空間領域をカバーできます。
遊び・玩具の種類 | 効果的な時期 | 鍛えられる能力の主な領域 |
---|---|---|
シェイプソーター 積み木 | 幼児初期 | 形状認識、メンタル・ローテーション |
ブロック | 幼児中後期 | メンタル・ローテーション3D、パースペクティブ・テイキング(視点の変換)、空間スケーリング |
パズル(パターンブロック) | 幼児中後期 | メンタル・ローテーション2D、ディス・エンベッディング(埋め込み図形の特定)、図形の合成分解 |
立体工作(紙) | 幼児中後期 | メンタル・フォールディング3D |
折り紙 | 幼児中後期 | メンタル・フォールディング2D |
なお、乳児期については、「オブジェクト探索」がメンタル・ローテーション能力の発達に重要な役割を果たしていることがわかっています。(たとえば、19, 20, 21)
オブジェクト探索とは、目や手を使ってものの形状を感知する行為をいいます。
オブジェクト探索の方法は簡単です。
4か月を過ぎたころから、形のあるものを見せて追視させる(これを様々な視点から行う)、さらに、独りで座れるようになったら、様々な形状のものに触れさせる、これだけです。
3.パターン化能力
パターン化能力とは、主に「○○☆○○☆○○☆」のような並びのパターンを把握したり、複製したりする能力をいいます。
幼児期のパターン化能力もまた、算数の成績を予測する重要な因子として特定されています。(たとえば、06, 22, 23, 24, 25)
数系列の理解をはじめ、数的な要素の規則性や構造的な関係の理解は、パターン化能力によってサポートされていると考えられています。
パターンの探索を引き出す遊びとしては、ビーズ・ストリング(ビーズの紐通し)があげられます。
遊び方は、ビーズの並びのユニットを決めて(例えば、赤青青)、それを繰り返していきます。
パターン化能力を養うという目的では、自由創作はほとんど効果がありません。
ビーズのほかにも、キューブブロックを使用してパターンを作成するというやり方があります。
詳しくは、こちらの記事をご覧ください。↓↓↓
まとめ
●幼児期に、インフォーマルな活動から算数の基礎となる能力を養っておくことが、就学後の学習や学力にとって重要である。
●インフォーマル算数では、数、空間、パターンの3つの領域を押さえる。
●親の役割としては、数、空間、パターンに関して、発話や働きかけをたくさん行うこと、遊びや活動の機会をたくさんつくって、それに参加することが求められる。
それによって、これらの認知能力の発達を効果的に促すことができる。
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子どもの学びに関する多くの学術的知見を持っています。
また、6歳児から中高校生まで勉強を教えた経験があり、学力に与える学習の効果は、年齢が低いほど大きいことを痛感しています。
これらを生かして、効果的で再現性の高い子どもの学びのあり方や方法を提案していきます。よろしくお願いします。