ナンバーセンスとは?
ナンバーセンスとは、
数学的な問題を解決するときに、
その状況に必要な数と演算に関する知識を検索し、
より合理的な方略を素早く見つける能力
をいいます。*1
ちょっと理解しにくいと思うので、小学生でもわかるようにかみ砕いて言うと、
計算をするときに、
自分の持っている数と式に関する知識を使って、
より簡単に計算できる方法を素早く見つける能力
となります(意味としては少々不完全ですが…)。
この能力を身につければ数学ができるようになる、と言うのは言いすぎですが、数学のできる人は必ずと言っていいほどこの能力を持っています。
別の言い方をすると、数学が得意になるためにはこの能力が必須です。
- 「ナンバーセンス」の定義は、文献によって幅がありますが、ここでは 計算方略の「柔軟性」や「合理性(効率性)」を重視した Kho (1997) の定義に基づいています。
- 「ナンバーセンス(number sense)」は、日本語に訳すと「数感覚」ですが、「ナンバーセンス」と「数感覚」は同じではありません。
「数感覚」が主に「数量の直感的理解」という意味を表すのに対し、「ナンバーセンス」は「数に関する情報を構造的に理解し、柔軟に活用する能力」を指すことが多いです。
暗算をうまく行える子どもは、ナンバーセンスに優れている
ナンバーセンスは、暗算や概算をうまく行えることと関係があるといわれています。*2
「暗算をうまく行える」とは、頭の中で横式の計算が柔軟かつ合理的できることをいいます。
たとえば、「198×9」は、
198×9 = 1980-198 👈 198×(10-1)
= 980-200+2
= 1782
または、
198×9 = 1800-18 👈 (200-2)×9
= 1800-20+2
= 1782
などとやれば、暗算でも計算できます。
これぐらいの計算になると、筆算のほうが早いかもしれませんが、筆算は手順がほぼ決まっているので、思考の入る余地がありません。
一方、暗算や概算では「どうすれば速く正確に計算できるか」を考える必要があるため、ナンバーセンスが試されるのです。
もう一つ、小学校2,3年生レベルの問題の例をあげておきましょう。
「143-75+42」は、一見すると前から計算すればよいように見えますが、
143-75+42 = 143-33 👈 143-(75-42)
= 110
と、最初に引く数と足す数をまとめるか、
143-75+42 = 185-75 👈 (143+42)-75
= 110
と、後ろの数を先に足すと、繰り下がりと繰り上がりを回避でき、前から計算するよりもずっと容易に答えを導き出すことができます。
このように、ナンバーセンスを磨くと、状況に応じて合理的な解き方を素早く見つけることができるようになります。
たとえば、
- Kho, T. H. (1997). Mental computation performance: strategies, perceptions and gender differences of secondary two students. National Institute of Education, Singapore.
- Price, G. R., Mazzocco, M. M. M., & Ansari, D. (2013). Why mental arithmetic counts: Brain activation during single digit arithmetic predicts high school math scores. The Journal of Neuroscience, 33(1), 156–163.
- Gürbüz, R., & Erdem, E. (2016). Relationship between mental computation and mathematical reasoning. Cogent Education, 3(1).
ナンバーセンスを養うには?
ナンバーセンスは、生まれつきのものではありません。
学習によって養っていくものです。
それには次のことが大切だと考えられています。
- 10や100(および5や50)を基準にすると計算しやすいという10進法の本質を理解すること
- 数の構造を十分に理解すること
数の構造とは、たとえば、
「7は3と4、2と5、6と1で構成される」(合成・分解)、「7に3を足せば10になる」(10に対する補数)、「25が4つで100になる」(倍数)、「100-10は10-1と構造が同じ」(再帰的構造)、「5+5+5+…の一の位は0と5を繰り返す」(繰り返し構造)
などをいいます。 - 演算の意味や性質をきちんと理解すること(たとえば、「2を引いて1を足すことは1を引くことに等しい」)
- 多様な方略を考え、トライ・アンド・エラーを繰り返すこと、またその結果を吟味すること
1,2,3は、「数をどう捉え、どう扱うか」という認知的スキルです。これがナンバーセンスの土台となります。
4は、実際にナンバーセンスを磨くための取り組みです。
つまり、子どもが日々の学習を通じて、数の構造や演算の意味・性質をきちんと理解し、普段から計算するときに「上手いやり方がないか」考えることが重要になります。
具体的な方法としては、小学校の低学年では、次の計算の機会を利用して、ナンバーセンスを養うことができます。
これらの計算では、認知的スキルの活用と柔軟で合理的な方略の選択が求められるからです。
- 繰り上がりのあるたし算 ─ 加数分解、被加数分解のどちらを用いるか【小学1・2年】
- 繰り上がりのあるひき算 ─ 減加法、減減法のどちらを用いるか【小学1・2年】
- 3つの数のたし算・ひき算 ─ どのような手順で計算するか【小学2・3年】
- 2桁(3桁)のたし算・ひき算 ─ どのような方法で計算するか*【小学2・3年】
134-78 = (134-80)+2
= 54+2
= 56
という具合に、工夫して計算することができます。
ところで、文科省の学習指導要領では筆算の習得が重視されており、特に低学年では筆算の指導に多くの時間が割かれます。
そのため、学校の授業や宿題で、横式計算の学習や練習を十分に積むことが、質と量の両面で難しい状況となっています。
したがって家庭での取り組みがとても重要になります。
今回ご紹介したナンバーセンスの育て方は、日々の学習の中で少しずつ取り入れることができます。
各計算の具体的な指導のし方については、別の記事で詳しくご紹介していきますので、ぜひご覧ください。
子どもの学びに関する多くの学術的知見を持っています。
また、6歳児から中高校生まで勉強を教えた経験があり、学力に与える学習の効果は、年齢が低いほど大きいことを痛感しています。
これらを生かして、効果的で再現性の高い子どもの学びのあり方や方法を提案していきます。よろしくお願いします。