「パターン化能力」は、「数的能力」、「空間認識能力」とともに、数学の成績を予測する三大因子の一つです。
この記事では、この能力を幼児期に育成することの重要性と、その発達を促す知育遊びについて解説します。
パターン化能力とは?
パターンとは、並びのパターンをいいます。並びのパターンには、次の二つのタイプがあります。
・繰り返しパターン:
「■■■■■■」、「123123123」のように同じ並びが繰り返されるパターン
・成長パターン:
「■■■■■■■■■」、「13579」のように、一定の規則で増加(または減少)するパターン
パターン化能力とは、これらの並びのパターンを形成する能力をいいます。具体的には、次の四つによって測られます。
- パターンを複製する:モデルとなるパターンの正確なレプリカを作成する。
【例】■■■■ ➔ ■■■■ - パターンを拡張する:同じパターンを繰り返す。
【例】■■■■■■ ➔ ■■■ ■■■ ■■■ ・・・ - パターンの不足しているアイテムを特定する:
【例】■■■■■■??■ ➔ ■■■ ■■■ ■■■ - パターンを抽象化する:別の素材を用いて同じパターンを作成する。
【例】AABAAABA ➔ ■■■■ ■■■■
パターン化能力と算数の関係
幼児期のパターン化能力は、幼児期から学童期の算数のスキル(計数、計算、代数、幾何学など)の強力な予測因子です。(たとえば、01, 02, 03, 04, 05, 06, 07, 08)
パターン化に必要なのは、規則性や構造的関係を認識することです。
たとえば、100まで数えるときの1の位と10の位との構造的関係の理解や、「2、4、6、8、・・・」、「5、10、15、20、・・・」という数え方の理解などは、パターン化能力がサポートしていると考えられています。(08)
より専門的にいうと、パターン化能力は、代数的思考の基礎となる一般化を可能にします(専門的な話なので、理解できなくても大丈夫です)。
「子どもの数学的な成長に、パターン探索が欠かせない」といわれるのは、そのためです。
パターン探索を引き出す知育遊び
二つのパターンタイプのうち、増加パターンは少し扱いが難しいので、幼児期は、繰り返しパターン化能力を養うとよいでしょう。
繰り返しパターンが形成できるようになると、しだいに増加・減少パターンも形成できるようになります。(09)
この能力の発達を促すのに有効な遊びの一つに、「ビーズの紐とおし」があります。
「ビーズの紐とおし」は、「数」の探索もさることながら、それ以上にパターンの探索を引き出すことが確認されています。(10)
ビーズの代わりに、キューブタイプのブロック(または、積み木)を利用する手もあります。
ブロックや積木だと、紐を通さなくてよいので、より手軽に子どものパターン探索の相手ができます。
また、この手の玩具は、数や空間など、算数にかかわる学びに広く利用できるというメリットもあります。
始める年齢
パターン化能力は、4歳で既に大きな個人差があることがわかっています。(11)
したがって、3歳ごろからトレーニングを始めると、より大きな効果が得られる可能性があります。
一方、パターン化能力は、4歳から7歳の間にも大きく発達することがわかっています。(たとえば、08, 09)
したがって、5,6歳からトレーニングを始めても、遅すぎることはありません。
パターン探索のやり方
幼児期のパターン探索は、「パターンの複製」、「繰り返しパターンの拡張」が中心となります。
パターンの複製
最初は、「パターンの複製」から入ります(2,3歳~)。
モデルとなるパターンを見て、そのとおりにビーズ(または、ブロック)をつなげていきます。
モデルは、パターンカードを使用するか※、親がパターンをつくります。
つくりかたは、ビーズ(または、ブロック)を5,6個、任意に選んで一列に並べる(つなげる)、これだけです(たとえば、■●▲■●)。
「パターンの複製」は、数回試行して全てできるようなら、それでOKです。
※ ビーズゼットやキューブブロックのセットには、パターンカードがついているものがあります。
繰り返しパターンの拡張
・「ビーズの紐通し」
遊び方は、並びのパターンを決めて(たとえば、■■■)、そのパターンでビーズをつなげていきます(たとえば、■■■■■■■■■… )。これが唯一のルールです。
1ユニットの個数は、とりあえずは2個(■■)から始めて、3個(■■■/■■■/■■■/■■■)、4個(たとえば、■■■■)と増やしていきます。
幼児期のパターン化スキルとしては、1ユニット4個か5個の繰り返しパターンが形成できれば、十分かと思います。
・キューブブロック
キューブブロックの場合も、まず、1ユニットの個数と配列を決めます(たとえば■■■)。
次に、それを2つ以上つなげます(たとえば、■■■■■■)。
ここまでは、親の作業です。
パターンをセットしたら、子どもに「次は何がくるかな?」、「その次は?」などと言って、パターンをもう1ユニット形成するように促します。
1ユニットの個数は、2個からはじめて、3個、4個と増やしていきます。
幼児期のパターン化スキルとしては、4個までのいろいろなパターンを認識できるようにしておくとよいでしょう。
子どもがパターンを認識できないときは、ユニットとユニットを切り離してパターンの認識を促します。
【例】
■■■■■■■■? ➔ ■■■■ ■■■■ ?
■■■■■■■■■? ➔ ■■■■ ■■■■ ■?
クイズを出すような感じで、パターン化課題を出してあげると、子どもは楽しくパターン探索をすることができます。
パターンの不足しているアイテムを特定する
・キューブブロック
ユニットを二つか三つつなげ、アイテムの一つか二つを抜いて、そこに何が入るかを問います。
繰り返しパターンの拡張と変わりはないです。
【例】■■■■■■?■■■■■ ➔ ■■■■ ■■■■ ■■■■
玩具の選び方
ビーズやキューブブロックを選ぶポイント(パターン探索の側から見たポイント)は、次のとおりです。
- 扱いやすさ: その年齢で扱えるかどうか(大きさ、つなげやすさ)
- ビーズやブロックの種類と数:その種類と個数で任意のパターンが何回繰り返せるか
ビーズの場合は、1種類につき10個以上あるとよいですが、市販されているセットだとかなり限定されます。
その場合は、工夫をしましょう。1種類10個以下でも、かなりのパターンに対応できます。
たとえば、「■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■」だと、■が12個必要ですが、「■■■■ ■●●● ■■■■ ■●●●」のように、■と●を交互に用いると、それぞれ6個ですみます。
キューブブロックの場合は、「1ユニット4個」を最大とすると、これを3つつなげるのに必要なブロックの数は、1色最大9個になります(たとえば、■■■■を3つつなげると■が9個必要)。
販売されているものは、たいていこれを満たします。
- 活用範囲: 他の知育領域(数、空間)を考慮するかどうか
- 子どもの好み
3歳ぐらいから遊べますが、子どもによっては、3歳では紐を通すのが少し難しい場合があります。その分、巧緻性は鍛えられます。
パターンカードは、「パターンの複製」用です。「繰り返しパターンの拡張」には、対応していません。「繰り返しパターン」のモデルは、親が別途作成する必要があります。
上記の製品のパターンカードがついていないバージョンです(通常、こちらのほうが安い)。
「パターンの複製」は、簡単にモデルを作成することができるので、こちらで十分かもしれません。
キューブタイプの積み木ですが、繰り返しパターンの作成に使用できます。
付属のパターンカードは、ストラクチャード・ブロックプレイ用です。
ラーニング リソーシズ社のマスリンク・キューブ(算数の基礎を学ぶためのキューブブロック)のセットです。
このセットには、たくさんのシリーズがありますが、紹介しているのは、Numberblocksバージョンです。Numberblocksは、イギリスBBCが作成する子供が算数を学ぶためのアニメです(YouTubeでも視聴できます)。
3歳ごろから、楽しく算数を学ぶことができ、パターン探索にも使えます。
※ ブロックの接合が固いため、3歳では接合に親の補助を必要とする可能性が高いです。
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子どもの学びに関する多くの学術的知見を持っています。
また、6歳児から中高校生まで勉強を教えた経験があり、学力に与える学習の効果は、年齢が低いほど大きいことを痛感しています。
これらを生かして、効果的で再現性の高い子どもの学びのあり方や方法を提案していきます。よろしくお願いします。