小学校の1年生で習う「3つ数の計算(たし算、ひき算)」。学校では「たし算・ひき算は前から順に計算する」と教えられます。
しかし、ただ単に「前から計算する」ことを覚えるだけでは、足し引きの本質を理解したことにはなりません。
実際に、小学2,3年生ぐらいの子どもで、足し引きの順番に関して本質が理解できていない子どもが多くいると実感しています。
そこで、今回は「3つ数のたし算、ひき算」の計算の順序をテーマに、足し引きの本質の理解と、家庭での指導のあり方についてお話ししていこうと思います。
子どもの学力の向上につながる話です。
たし算・ひき算はなぜ前から計算するのか?
たし算とひき算の式は、前から順に計算するという原則があります。
➀ 6+7+4=13+4
=17
➁ 13-7-3=6-3
=3
このようなルールを設けている主な理由は、ひき算を含む式を任意のところから計算すると、答えが変わってしまうことがあるからです。
たとえば、「13-7-3」の計算で、7よりも先に3を引くように言うと、
13-7-3=13-4
=9
と7から3を引いてしまう子どもがいます。
前から計算させる主な理由は、このような誤りを防ぐためです。
足し引きの原理をきちんと理解している子どもは、どんな順にも計算できる
しかし、これを単に「操作手順の誤り」として片づけてしまうと、本質を見落としてしまいます。
というのも、足し引きの原理をきちんと理解していれば、このような誤りは起きないからです。
引く数と引かれる数の関係をきちんと理解している子どもは、3を先に引くように言うと、当然のように13から3を引きます。
つまり、
13-7-3=10-7
=3
と計算することができます。
あるいは、引く数の7に引く数の3を合わせて、
13-7-3=13-10
=3
と計算するかもしれません。
そのような子どもは、「13-7-3=13-(7+3)」という演算式を知らなくても、「7を引いて3を引くことは、7と3を合わせた数、すなわち10を引くことに等しい」ことを理解しています。
小学校の2年生の段階で、この原理がきちんと理解できているかどうかは、算数が得意になるかどうかの分岐点といえるほど重要なことです。
したがって、理解できていないお子さんには、2回足す(引く)とはどういうことか、また1回足して1回引く(1回引いて1回足す)とはどういうことか、理解を促してあげる必要があります。
一つ、やり方を紹介しておきましょう。
おはじき、オセロのチップ、百玉そろばん、整数タイルなど(1個、2個と数えられるものなら何でもよい)を使ってやります。
🔵🔵🔵 (3個加える)
🔵🔵🔵🔵 (もう1個加える)
このようにして、3を足して1を足すことは、結果的に3と1を合わせた数、つまり4を足すのと同じであることを確認させます。
また、足す順番を替えて試行し(10+1+3)、結果に変わりがないことを確認させます。
このようにして、3を引いて1を引くことは、3と1を合わせた数、つまり4を引くのと同じであることを確認させます。
また、引く順番を替えて試行し(10-1-3)、結果に変わりがないことを確認させます。
🔵🔵🔵 (3個加える)
🔵🔵🔵🔵🔵 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵→ 🔵 (1個取る)
「3個加えたあと、そのうちの1個を取った」という見方をすれば、実質的に加えたのは2個ということになる。➜ このようにして、3を足して1を引くことは、2を足すのと同じであることを確認させます。
🔵🔵 (2個加える)
「1個取ったあと、それを戻してさらに2個加えた」という見方をすれば、実質的に加えたのは2個ということになる。➜ このようにして、1を引いて3を足すことは、2を足すのと同じであることを確認させます。
👉 (3)、(3)´からわかること
・たす数がひく数より大きければ、その差(たす数-ひく数)が「実質的なたす数」となる。
・足してから引いても、引いてから足しても結果は同じ。
「3個取ったあと、そのうちの1個を戻した」という見方をすれば、実質的に取ったのは2個ということになる。➜ このようにして、3を引いて1を足すことは、2を引くのと同じであることを確認させます。
🔵 (1個加える)
🔵🔵🔵🔵🔵 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵→ 🔵 (1個取る)
「1個加えたあと、それを取ってさらに2個取った」という見方をすれば、実質的に取ったのは2個ということになる。➜ このようにして、1を足して3を引くことは、2を引くのと同じであることを確認させます。
👉 (4)、(4)´からわかること
・ひく数がたす数より大きければ、その差(ひく数-たす数)が「実質的なひく数」となる。
・引いてから足しても、足してから引いても結果は同じ。
足し引きの順番は変えてもいいの?ルール上の問題は?
以上、たし算、ひき算の順序について本質にかかわる話をしましたが、ルール上はどうなっているかも確認しておきましょう。
結論から言うと、足し引きの順番を変えることは、ルール的にも問題ないです。
ただ、ひき算はちょっと注意が必要です。
⇊ ここからの話、「ちょっと難しい」と思われるかもしれませんが、理解できなくても大丈夫です。
たし算については、交換法則、結合法則が成り立つので、足す順番を入れ替えたり、特定の部分から計算したりすることができます。※1
これは、小学校の4年生で習います。
ひき算については、そのままでは交換法則、結合法則が適用できないのですが、「負の数のたし算」として扱うことで、これらの法則が適用できます。※2・※3
これは、小学校の学習範囲ではありません。
と、ここまで読んで「難しい」と思われた方は、緑枠の解説(※1・2・3)はとばしてもらってかまいません。
結論がひとり歩きしないよう、ルール上の裏付けを示しておきたいだけなので。
※1 たし算の交換法則、結合法則
交換法則:足す順番を替えても答えは同じ
1+3=3+1
=4
2+4+6=4+2+6 👈 2と4を交換
=4+6+2 👈 さらに2と6を交換
=6+4+2 👈 さらに4と6を交換
=・・・
=12
結合法則:どこにカッコをつけても答えは同じ
2+4+6=(2+4)+6
=2+(4+6)
*カッコ内の計算が優先される
このように、3つ以上の数のたし算は、任意の順に、また任意の箇所から計算できる。
※2 ひき算にたし算の交換法則、結合法則を適用
・ひき算を「負の数のたし算」として扱えば交換法則が適用できる。
13-7-3=(+13)+(-7)+(-3)
=(+13)+(-3)+(-7) 👈 (-7)と(-3)を交換
=13-3-7
このように、引く順番は入れ替えることができる。
・ひき算を「負の数のたし算」として扱えば結合法則が適用できる。
13-7-3=(+13)+(-7)+(-3)
=(+13)+{(-7)+(-3)} 👈 (-7)と(-3)を結合
=13+(-10)
=13-10
このように、引く数は合わせることができる。
※3 たし算とひき算の両方を含む式に、たし算の交換法則、結合法則を適用
・ひき算を「負の数のたし算」として扱えば交換法則が適用できる。
14+8-6=(+14)+(+8)+(-6)
=(+14)+(-6)+(+8)
=14-6+8
このように、足し引きの順番は入れ替えることがでる。
ただし、14+6-8のように数字だけを入れ替えると式自体が変わってしまう。
・ひき算を「負の数のたし算」として扱えば結合法則が適用できる。
14+8-6=(+14)+(+8)+(-6)
=(+14)+{(+8)+(-6)} 👈 (+8)と(-6)を結合
=(+14)+(+2)
=14+2
このように、足す数と引く数は合わせることができる。
以上より、たし算とひき算の式は、任意の順に、また任意の箇所から計算できる。
その際、+-の記号と数字は、必ずセットで扱わなければならない。
まとめると、3つ以上の数のたし算・ひき算には、前から計算するという原則がありますが、+-の記号と数字をセットで扱う限り、足し引きの順番を入れ替えたり、特定の部分から計算したりすることができます。
足し引きの順番を工夫することで数学力のアップをはかる
3つ以上の数のたし算・ひき算は、足し引きの順番や組み合わせを工夫すると、合理的に計算できる場合が多くあります。
たとえば、「14-7-3」を前から計算すると、
14-7-3=14-4-3-3 👈 7を4と3に分解*
=10-3-3
=7-3
=4
* 14を10と4に分解するやり方(10-7+4-3)もある。
となりますが、引く数の7と3で10になることに着目すれば、
14-7-3=14-10
=4
と容易に答えを導き出すことができます。
これは、単なるテクニックの話ではありません。
小学校の低学年の子どもがこのような計算をするには、足し引きの原理をきちんと理解していなければなりません。
また、このような合理的な手順を見つけようとすることで、ナンバーセンスが育まれます。
このような理由から、「3つの数のたし算・ひき算」は、子どもが前から計算することを覚えたあとは、より簡単に計算できる手順を見つけて計算するように指導することを推奨します。
次回の記事では、今回の内容をふまえて、「3つの数にたし算・ひき算を利用したナンバーセンスの育て方」についてお話ししたいと思います。
まとめ
たし算・ひき算の計算の順序は、子どもにとって混乱しやすい部分ですが、足し引きの原理をきちんと理解することで、数を柔軟に扱うことが可能になります。
つまり、計算を工夫して行うことが可能になります。
さらに、この工夫を積み重ねていくと、「ナンバーセンス」が磨かれていきます。
このポジティブな軌道に小学校の低学年のうちに乗ることができれば、その後の算数の学習で大きなアドバンテージが得られます。
子どもの学びに関する多くの学術的知見を持っています。
また、6歳児から中高校生まで勉強を教えた経験があり、学力に与える学習の効果は、年齢が低いほど大きいことを痛感しています。
これらを生かして、効果的で再現性の高い子どもの学びのあり方や方法を提案していきます。よろしくお願いします。