子どもの努力や挑戦を引き出す増大的知能観とは

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子どもの努力量や挑戦意欲には、知能観が強く影響していることがわかっています。

今回の記事では、「努力する子どもの育て方」の導入部分として、「知能観」について解説していきます。

子どもの学習行動に影響を与える二つの知能観

子どもは「知能」というものに対して、通常、次のどちらかの信念を持っています。

一つは、「知能は鍛えることができる。学習すればするほど頭が良くなる」という信念です。このような信念を「増大的知能観(または、増大理論)」といいます。

もう一つは、「知能は生まれつき決まっている。学習によって知識は増えても、頭の良さは変わらない」という信念です。このような信念を「実体的知能観(または、実態理論)」といいます。

子どもがどちらの知能観をどれくらいの強度で持っているかは重要な問題です。
子供の将来の可能性に極めて大きな影響を及ぼすからです。

知能観による学習行動の違い

この知能観の違いは、さまざまな場面で子どもの行動や態度、判断に、明確な違いを生み出します。

たとえば、算数の授業で先生から二つの問題が提示され、どちらかを選んでみんなの前で解くように言われたとします。
一方は、自分にとって比較的容易な問題です。もう一方は、初見のため、解けるかどうかわかりません。

このような状況では、多くの子どもが前者を選択するでしょう。しかし、中にはあえて後者を選択する子どもがいます。

一般に、挑戦的な問題を選択する子どもは、増大的知能観に傾いている傾向があります。パフォーマンスよりも学習を重視し、困難な状況は能力を向上させる機会と捉えます。
そのため、あえて難しい課題を選択して、学習の機会を得ようとします。(たとえば、01, 02)

一方、常に解ける問題を選択する子どもは、実体的知能観に傾いている傾向があります。学習よりもパフォーマンスを重視し、困難な状況は自分の能力が試されるテストと捉えます。また、失敗してみんなから頭が悪いと思われたくない、という心理も働きます。
そのため、成功の保証された問題を選択して、自分の能力を肯定しようとします。(たとえば、01, 03)


さらに、課題がうまくできなかったときの反応にも、違いが見られます。

増大的知能観を持っている子どもは、自分がうまくできないのは努力が足りないせいだと考えます。
そのため、失敗が努力や改善措置といったポジティブな反応につながることが多くなります。(たとえば、03, 04)

一方、実体的知能観を持っている子どもは、自分がうまくできないのは能力が足りないせいだと考えます。
そのため、失敗が無力感やあきらめといったネガティブな反応につながることが多くなります。(たとえば、04, 05)

このようなそれぞれの知能観に見られる信念や志向、態度、行動の体系を、「増大フレームワーク」、「実体フレームワーク」といいます。「増大的・実態的なモチベーションの枠組み」という意味です。

二つの知能観の比較
増大フレームワーク 実体フレームワーク

・能力は学習によって向上すると信じている。

・能力は固定されていると信じている。

・成功は努力しだいと考える ─ うまくできないのは、努力が足りないせいだと考える。

・成功は能力しだいと考える ─ うまくできないのは、能力が足りないせいだと考える。

・習得、熟達することを志向する(学習目標) ─ 失敗や努力が必要な状況を学習の機会ととらえる。

・うまくできることを志向する(パフォーマンス目標) ─ 他人から自分の能力がどうみられるかを重視する。

挑戦を好む ─ やりがいのある難しいタスクを選択する。

失敗を避ける ─ 成功の保証されたタスクを選択する。

・失敗に対して改善措置をとる。

・失敗のあとも努力が持続する。

・失敗に対して無力である。

・失敗したらあきらめる。

増大的知能観を持つことは、キャリアの創造で大きなアドバンテージとなる

ここまでの話で、知能観の傾きが子どもの学業や将来のキャリアに少なからず影響を及ぼすことは、想像に難くないでしょう。

実際に、知能観の傾きは、学業成績を予測します。(たとえば、02, 06, 07, 08)

もちろん、学力を決める要因はそれだけではないので、勉強ができるからといって、増大的知能観を持っているとは限りません。

その逆もしかりです。努力が勉強以外のことに向けられている場合もあります。

いずれにしても、増大的知能観を持っている子どもは、課題があると、それに粘り強く取り組むので、学業に限らず、技能の習得・向上を積み重ねていくことができます。

また、その過程で、行き詰っては試行錯誤し、失敗しては改善に取り組むので、困難を乗り越える力もついてきます。

さらに、そうやって課題や目標を達成していくうちに、「何事もやればできる」という信念がより確かなものになっていきます。

このようにして成長した子どもが、将来、自分の進みたい道に進み、より多くの成果を手にすることは、想像に難くないでしょう。

知能観の形成は幼児期からはじまる

知能観の個人差は、遅くとも小学校に入学するころまでには現れます。(たとえば、06, 09)

この段階で増大的知能観を保持している子どもは、ほかの子どもよりも、多くの利益を得ることができます。

なぜなら、早くから難しい課題と向き合い、より多くの試行錯誤と技能の習得・向上を積み重ねていけるからです。
特に、算数のような累積的な性質の教科では、増大的知能観を持っているかどうかが、その学力に相当な影響を与えます。(たとえば、06, 08, 10)

このようなことから、増大的知能観の形成を促す取り組みは、幼児期の比較的早い段階から始めることが推奨されます。

幼い子どもの場合は、より自然な形で潜在意識の中に根付かせられるのも利点の一つでしょう。
そのような子どもは、難しい課題に対峙したとき「できるかどうか」よりも「どうやってやるか」に自然と意識が向かいます。


とはいえ、子どもの知能観は、成長のあらゆる段階で増大側に傾かせることが可能です。

たとえば、中学生、高校生、および大学生に、知能の可鍛性を承認させるための介入を行った実験があります。(02, 11, 12, 13)
いずれも介入を受けた生徒の多くが知能の可鍛性を承認し、不介入の生徒よりも学業成績を向上させています。

したがって、すでに学齢期にある子どもでも、増大的知能観の形成を促す試みが遅きに失するということはありません。
小学生ならなおさらです。

増大的知能観の形成を促す4つのアプローチ

ところで、子どもの知能観はどうやって形成されるのでしょうか?

少なくとも環境的な要因がその形成に強くかかわっていることが、多くの研究からわかっています。
環境的な要因とは、子どもに対する大人の言動や態度、教育などです。

それらのあり方が、子どもの増大フレームワーク、すなわち習熟意欲、活動の持続性、挑戦に対する心理などを一貫して予測するといいます。(たとえば、14, 15)

具体的には、幼児期から小学期にかけて次のことを実践すると、増大フレームワークの形成を効果的に促すことができます。(思春期以降では、別のアプローチが必要になります)。

(1)常にプロセスに目を向ける

学びの過程を重視すると、子どもは結果よりも成長に価値を置くようになります。
それによって、増大フレームワークの形成が促進されます。

プロセスを褒める

とりわけ、努力や習熟に対する称賛(プロセス・プレイズ)は、子どもの意識の中で努力の価値を高めます。

また、学習意欲を高め、困難な課題に対して粘り強さを発揮させます。

その結果、技能が向上するので、努力に対する肯定的な信念の形成が促進されます。

(プロセス・プレイズについては、別の記事で詳しく解説します)。

プロセスを問う

プロセスに焦点を当てるのは、称賛に限ったことではありません。

「どうすればできるのか」、「どこを改善すればよいのか」、「(良い結果に対してそのプロセスの)何がよかったのか」などを日ごろから問いかけることも重要です。

そのようなやり取りは、プロセスしだいで良い結果が導き出せること(少なくともその可能性が高められること)を子どもに教えます。

(2)挑戦を奨励する

挑戦をポジティブに捉えることは、増大フレームワークの重要な要素です

挑戦は、たとえば次のようにして奨励します。

  • 「うまくできなくても平気だよ。とにかくやってみることが大事」などと言って挑戦を促す。
  • 成功に対しては、「できたことよりも、挑戦したことに価値がある」などと言って称賛する。
  • 失敗に対しては、「まずは、挑戦することが大事。失敗は気にするな」、「失敗は成功するための学びの一部だよ」などと言って励ます。

これに結果がついてくると、「挑戦は受け入れたほうがよい」という信念の形成が促進されます。

(3)「達成」を積み重ねるためのサポートをする

三つ目は、子どもの課題や目標に対する取り組みをサポートすることです。

より具体的には、課題や目標の設定に始まり、取り組みの継続と、達成のために必要な技術的なプロセスをサポートします。
(具体的な方法については、別の記事で解説します)。

「達成」を積み重ねることで、「何事もやればできる」、「成功には継続(努力)が不可欠である」といった信念の強化を図ります。

また、技能の向上や、課題や目標の達成を、努力や戦略と結びつけて評価します。
努力・戦略 → 達成」のあとに贈られる「プロセス・プレイズ」は、増大的知能観の形成を強力に促進します。

(4)算数に関する学びをしっかりやる

四つ目は、算数に関する学びをしっかりとやってあげることです。

意外に思われるかもしれませんが、算数の能力と知能観の間には、相互作用的な関係があります。

このアプローチは、就学時に算数のレベルが高い子どもは、増大フレームワークを発達させやすく、逆に低い子どもは、実体フレームワークを発達させやすい、というエビデンスにもとづきます。
(➔ 「算数が得意な子どもは、増大フレームワークが発達しやすい」)

そのため、就学までに算数の基礎となる数の概念をきちんと整えておくことが重要になります。

また就学後も、算数の学習を軌道にのせるためのサポートをしてあげることが必要になります。

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すみりょう

子どもの学びに関する多くの学術的知見を持っています。
また、6歳児から中高校生まで勉強を教えた経験があり、学力に与える学習の効果は、年齢が低いほど大きいことを痛感しています。
これらを生かして、効果的で再現性の高い子どもの学びのあり方や方法を提案していきます。よろしくお願いします。

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