この記事では、乳幼児期を通した、効果的な知育のあり方について解説します。
テーマは、「将来に向けて自ら伸びていける子どもを育てる」です。
知育を成功に導く3つの鍵
「将来に向けて自ら伸びていける子どもに育ってほしい」、そう願っている親御さんは多いのではないでしょうか?
知育は、それを実現する最も効果的な手段です。
最近では、ウェブ上に有益な情報がたくさんあるので、誰でも何かしらの取り組みが可能です。
ただし、知育はやりかたしだいで、成果が大きく変わってきます。
成果とは、具体的には学業や職業的な成果ですが、その下支えをする認知能力と非認知能力を育むのが知育の目的です。
知育では、次の3つのことを実践すると、その効果が格段に上がります。
- 子どもに対する発話の質と量を高める
- 目的ありきで知育活動を選択する
- 算数にかかわる活動に重点を置く
1.子どもに対する発話の質と量を高める
知育の基本は、子どにたくさん話しかけることです。
というのも、乳幼児が親からどのような言葉をどれだけ受け取ったかが、その子の認知能力と非認知能力の潜在的な到達点を予測するからです。
子どもの認知・非認知発達にポジティブな影響を与える言葉としては、次の三つがあげられます。
①多種多様な言葉
②数と空間に関する言葉
③プロセス・プレイズ(プロセスに対する称賛の言葉)
それでは、これらのひとつひとつについて、詳しく見ていきましょう。
多種多様な言葉
親から子どもへの言葉の入力は、乳児への「話しかけ」に始まり、少しずつ高度な会話へと発展します。
子どもの語彙力は、その間に受けた言葉の種類と量の累積によって、3歳ですでに大きな差ができてしまいます。 (01)
それは新たな知識を受け入れるキャパシティーの差となり、就学後に学力の差となって現れます。
では、この言葉の入力の差は何によって生じるのでしょう?
たとえば、絵本の読み聞かせは、子どもの語彙力を高める最も効果的な手段です。これをたくさんする親とほとんどしない親とでは、子どもの語彙力にかなりの差が生じます。
さらに、読み聞かせの際に、絵本のテーマやストーリー、挿絵などから様々なトピックを生成する親は、しない親よりも子どもへの言葉の入力がずっと多くなります。
恐竜の本なら、その恐竜の大きさはどのくらいか、指の数は何本か、草食か肉食か、なぜ絶滅したのかなど、恐竜にまつわる様々なトピックが生成できます。
他の知育活動(遊び)についても、同じです。親が子どもの活動に積極的に参加することによって、その活動に関連して多くの言葉を発するチャンスが得られます。
まとめると、子どもに入力される言葉の種類と量は、親が子どもの活動にどれだけ関わるか、またそこで、有益な言葉(= 新しい知識や概念に関わる言葉)をどれだけ発せられるか(言葉の生成)、この二つによって大部分が決まります。(たとえば、02, 03, 04)
数と空間に関する言葉
幼児が親から受け取る数や空間に関する言葉の量は、のちの数的能力や空間認識能力を予測することがわかっています。(たとえば、03, 05)
「空間に関する言葉」とは、ものの形状やサイズ、位置関係や方向などを表す言葉をいいます。
また、「空間認識能力」は、数学や理科の成績、およびSTEM分野への適性を予測する重要な能力で、IQにも影響します。
(空間認識能力と空間言葉については、こちらの記事をご覧ください。)
数と空間に関する言葉が入力は、日常生活の様々な機会を利用して行います。
たとえば、
– おふろで一緒に数を唱える
– おやつをあげるときに個数を数えながら渡す
– 時計を指して「長い針が6のところにきたら出発するよ」などと言う
– 絵本の挿絵を使って数や形、位置関係などについてやりとりをする
また、数や空間的要素のある遊びや活動も利用します。
たとえば、シェイプソーターで子どもと遊べば、形状に関するやりとりが必然的に発生します。
積み木遊びなら、積み木の形状、どちらが高く積めるか、何段積んだかなどを話題にできます。
トランプ遊びなら、数に関するやり取りが必ず発生します。
このように、日常の様々な機会を利用すれば、子どもにより多くの数と空間に関する言葉を入力できます。
プロセス・プレイズ
「プロセス・プレイズ」とは「よく頑張ったね」、「よく挑戦したね」のような行動や姿勢にスポットを当てた称賛を言います。
子どもは、プロセス・プレイズを受け取ると、自己に対する評価や学習意欲、粘り強さなどを向上させることがわかっています。(たとえば、06,07、 08, 09)
子どもは、より多くのプロセス・プレイズを必要としていますが、プロセス・プレイズは量もさることながら質が問われます。
プロセス・プレイズが適当にばらまかれたり、実態とずれていたりすると、逆効果になってしまうことがあるからです。
そのため子育てに携わる方は、プロセス・プレイズについて、ある程度の知識を仕入れておく必要があります。
2.目的ありきで知育活動を選択する
知育活動は、「これができたら次はこれ」というように、発達の順序性を踏まえて、目的をもって取り組むことが重要です。
たとえば、算数の場合、
といった具合に、発達の順序に沿って知育活層を進めていきます。
言葉ややり取り、遊びやおもちゃなども、その時点の能力よりも少し難しいものを選択していきます。
そうすることで、習得すべき知識やスキルを着実に積み上げていくことができます。
3.算数にかかわる活動に重点を置く
幼児期に算数の基礎となる能力を整えておくことには、大きなメリットがあります。
幼少期に獲得した算数の能力は、学業成績や職業的成果を予測する
算数という教科は、学校で学ぶ全ての教科の中で、専門性を度外視すれば、子どもの将来に最も貢献する教科です。
まず、幼児期から学童初期に獲得した算数の能力は、その後の学業成績を一貫して予測します。この予測力は、読解力などよりもずっと強力です。(たとえば、10, 11, 12, 13, 14)
さらに、初期の算数の能力は、キャリアの志向と職業的能力、職業的地位を予測します。(たとえば、15, 16, 17)
特に、算数の成績でトップ層にいる子どもたちは、将来のキャリアで、並外れた成果とリーダーとしての活躍が相当程度期待できます(成績トップの子どもたちの30~40年後を調査)。(18, 19)
また彼らは、人生に対する満足度が一様に高いこともわかっています。(19)
このように、高い算数の能力で小学校をスタートすると、将来、自分のやりたい職業で能力を発揮し、高い収入と満足度の高い人生を手にする可能性が高くなります。
これだけで、算数を知育の軸に据える理由になります。
算数が得意な子どもは、増大フレームワークが発達しやすい
就学時の算数の能力は、努力量にも影響を与える可能性があります。
というのも、小学校の低学年で算数の得意な子どもは、増大フレームワークを発達させやすく、逆に苦手な子どもは、実体フレームワークを発達させやすいことが示唆されているからです。(20)
増大的フレームワークとは
増大的フレームワーク(=増大的なモチベーションの枠組み)とは、「成功は努力しだいである」、「失敗や困難な状況は学習の機会である」、「何をするにも方略がある」、「挑戦は受け入れるべきだ」といった信念や態度をいいます。
増大フレームワークが発達した子どもは、習熟・熟達を志向し、そのための努力を惜しみません。
また、難しい課題に挑戦することをいとわず、失敗してもくじけません。
このことは、技能の向上や目標の達成などに極めてポジティブな影響を及ぼします。
これとは反対に、成否の理由を能力に求めるのが、「実体フレームワーク」です。
実体フレームワークが発達した子どもは、難しい課題に対して、「自分には才能がないから無理だろう」、「どうせうまくできないからやめておこう」といった考え方をします。
そのため、重要な学習の機会を逃してしまうことが多くなります。
算数と増大フレームワークの関係
では、なぜ算数が得意な子どもは、増大フレームワークが発達しやすいのでしょうか?
算数の学習では、難しい課題に直面しては試行錯誤し、方略を生成し、問題を解決する(すなわち、目的を達成する)というプロセスを、延々と繰り返していかなければなりません。
おそらく、算数の基礎を整えて就学した子どもは、このサイクルに乗って、「何事もやればできる」、「困難は乗り越えられる」といった信念を発達させやすいのだと思います。
逆に、算数の基礎が整っていない子どもは、本格的な算数の学習に入っていくのに苦労します。
算数の学習では、ある概念の理解が不完全だと、新たな概念の理解が難しくなるからです。
それを放置すると、しだいに算数の勉強についていけなくなり、学習を敬遠するようになります。
それは、あきらめ、無力感といった実体フレームワークの発達にほかなりません。
ちなみに、私の幼児教育は、算数の基礎を整えることと、増大的知能観の形成に重点を置いています。
経験的に言って、この二つを備えた子どもは、中学校に入ってからの学力の伸びが凄まじいです。
算数のために行う知育活動は、算数以外の領域もカバーする
数や空間認識能力の発達に有効な遊びや活動の中には、集中力、巧緻性、社会性などの非認知能力の発達に有効とされるものが多くあります。
たとえば、ボードゲームやブロック遊び、ビーズ遊び、料理などがそうです。
また、絵本は、初期の言語能力の発達に極めて有効なツールですが、初期の数的能力の発達を促すツールとしても優れていることがわかっています。(たとえば、21, 22)
算数を意図した絵本でなくても、ストーリーのパターンや因果関係、(挿絵に注目すれば)数や順番、配置など、算数に関連した内容が多く含まれているからです。
このように、数や空間にかかわる知育活動は、算数の能力を向上させるだけでなく、その他の多くの認知・非認知領域をカバーします。
それによって、シンプルかつ効率的な知育活動が可能になります。
まとめ
●子どもに浴びせる言葉の種類と量が、認知・非認知能力の発達に強く影響する。
➔ 子どもと一緒にたくさんの知育活動(主に遊び)をすると、その機会は増える。
➔ 数・空間に関する発話とプロセス・プレイズを意識する必要がある。
●知育活動は、発達の順序を踏まえて目的ありきで選択する。そうすれば、必要な知識やスキルを着実に積み上げることができる。
●知育は算数を中心に組み立てるとうまくいく。
➔ 幼児期に算数の基礎となる能力を整えておくと、学業的にも職業的にも、大きなアドバンテージが得られる。また、それによって人生のポジティブな軌道に乗る可能性が高くなる。
➔ 知育の大半を算数にかかわる活動に費やしても、ほかの認知・非認知領域のかなりの部分カバーできるので問題はない。
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子どもの学びに関する多くの学術的知見を持っています。
また、6歳児から中高校生まで勉強を教えた経験があり、学力に与える学習の効果は、年齢が低いほど大きいことを痛感しています。
これらを生かして、効果的で再現性の高い子どもの学びのあり方や方法を提案していきます。よろしくお願いします。