トランプ遊びは、幼児が数を理解するのにとても有益な遊びです。
まず、1枚のカードに数字とドット(ハートなどのマーク)の両方が描かれているので、子どもが数字を理解するのに役立ちます。
また、枚数を数える、枚数を比べる、数字の大きさを比べる、数字を合計する、といった遊びの特性により、数を扱うスキルの向上を促すことができます。
さらに、いろいろな遊びができるので、発達の段階に合った遊びを選択することで、幼児中期から小学校の低学年まで長きにわたって利用できます。
これが数百円もあれば手に入るわけですから、利用しない手はないでしょう。
今回の記事では、初期の数的発達を効果的に促すトランプ遊びと、その効果を最大限にアップさせる方法を紹介していきます。
数的発達の初期段階に効果のあるトランプ遊び
トランプには、様々な種類の遊びがありますが、数的発達の初期段階ということなら、「神経衰弱」、「戦争」、「七並べ」の3つをやっておくとよいです。
幼児の初期の数的発達は、「基数の理解」 → 「数字が表す大きさの理解」 → 「序数の理解」と進みます。
そこで、まず、子どもが基数を理解し、数字を覚え始めたら、「神経衰弱」で1から10の数字の記憶の定着をはかります。
次に、「数字が表す大きさの理解」を「戦争」でサポートします。
そして、数字の大きさをある程度理解した段階で「七並べ」を取り入れ、「序数の理解」を確実にします。
このように、初期のトランプ遊びは、「神経衰弱」→「戦争」→「七並べ」の順に取り入れていくとよいです。それぞれの遊びは、並行して行ってかまいません。始める時期だけ見極めてください。
以下、「神経衰弱」と「戦争」の遊び方について解説します。「七並べ」については特別なことがないので、省略します。
数字を覚える以外にも学べることが多い「神経衰弱」
「神経衰弱」は、小さな子どもでも楽しむことのできるトランプ遊びです。
簡単な遊びですが、数的発達を促す効果は非常に大きいです。
まず、基数を理解し、数字を覚えている段階の子どもは、このゲームによって、数字の記憶の定着をはかることができます。
さらに、取った枚数を数えたり、比べたりするので、カウントスキルの向上や差の概念の理解を促す効果が期待できます。
はじめる時期、遊び方など
○主な効果
- 数字(1~10)のインプット
- カウントスキルの向上(10枚と5枚をまとめるカウント方略など)
- 差の概念の理解の促進
○はじめる時期など
- 基数を理解し、数字を覚えている段階(おおむね4歳)で始めるとよい。
- 数字を覚えたあとも、カウントスキルや差を求めるスキルの向上を促すことができる。
○基本の遊び方
知らない人はほぼいないと思うので、省略します。
○遊び方の工夫(幼児用)
- ジャック、クイーン、キングを抜くと、小さな子どもでも遊びやすくなる。さらに枚数を減らす場合は、大きい数から抜く。
- 「A」が「1」になっている知育用のトランプを使うと、純粋に数字だけで遊ぶことができる。
「神経衰弱」の知育効果を格段にアップさせる3つの手続き
ゲームのときに、次の3つのことをすると、子どもの数的能力の発達をより効果的に促すことができます。
めくったカードは読み上げる
子どもが10までの数字を完全に覚えるまでは、カードをめくったとき、いちいち数字を読み上げるようにします。
カードの枚数を数えるとき、10枚と5枚をまとまりにする
ゲームが終了したら、取ったカードの枚数を数えます。
数えなくても枚数を比べることはできますが、計数のスキルアップのために、あえて数えるようにします。
数え方としては、10枚と5枚をまとまりにするように指導します。
たとえば、22枚なら「10枚が2つと、残り2枚で22枚」、16枚なら「10枚が1つと、5枚が1つと、残り1枚で16枚」という具合に数えます。
こうすると、10までの数の知識で対応できるだけでなく、10や5をまとめると数を把握やすいことに気付かせることができます。
このことは、数体系の理解につながり、のちに足し算や引き算の操作が上手く行えることにも関係します。
勝ち負けの判定:どちらが多いかは並べて比べる
枚数を数え終わったら勝ち負けを判定します。
最初は、差の概念の理解を促すために、あえて並べて比較させます(毎回でなくてもよい)。
たとえば、プレイヤー➊が22枚(10枚、10枚、2枚)、プレイヤー➋が16枚(10枚、5枚、1枚)の場合、
- 比べるカードを、子どもから見て左から「10枚の束 → 5枚の束 → 端数」の順に2列に並べます。(この時点で、10枚の束が一つ対応)
- プレイヤー➊のもう一つの10枚の束を5枚と5枚に分け、その1つをプレイヤー➋の5枚の束に対応させます。(この時点で、10枚の束が一つと5枚の束が一つ対応)
- 残りの7枚(5枚と2枚)と1枚を比べます。このとき、プレイヤー➋の残りの1枚は、プレイヤー➊の端数の1枚に対応させます。(図の右端)
このようにして、プレーヤー1のほうが6枚多いことを理解させます。
プレイヤー➊が12枚(10枚、2枚)、プレイヤー➋が16枚(10枚、5枚、1枚)なら、
- 比べるカードを、子どもから見て左から「10枚の束 → 5枚の束 → 端数」の順に2列に並べます。─ これは共通!(この時点で、10枚の束が一つ対応)
- プレイヤー➋の6枚(5枚と1枚)のうちの端数の1枚に、プレイヤー➊の残りの2枚のうちの1枚を対応さます。(図の右端)
- 残りの5枚と1枚を比べます。このとき、プレイヤー➋の5枚の束はばらして並べなおします(このほうが対比しやすい)。
このようにして、プレイヤー2のほうが、4枚多いことを理解させます。
なお、各プレイヤーが1枚づつ同時に出していき、先になくなった方が負け、という比較の方法もありますが、枚数差を意識させるために、並べて比較する方法を推奨します。
科学的に高い知育効果が実証されたトランプ遊び「戦争」
「戦争」は、数字の大きさで競うゲームです(遊び方は、後で解説)。
親子で遊ぶと、ゲーム中に親から数に関する発話、特に数の大きさに関する情報が頻繁に引き出されることがわかっています。(01, 02)
また、数の理解が遅れた子どもたちに、一定期間このゲームをさせたところ、数の大きさ比較のパフォーマンスが大幅に向上し、先行する子どもたちとの数的知識の差がほとんどなくなったという統計的な結果が得られています。(03)
4~5歳で数字の表す大きさがきちんと理解できているどうかは、のちの算数の能力にとって重要です。(たとえば、04, 05, 06, 07)
「戦争」は、その理解度を高めるのに最適な遊びです。
子どもが数字を覚えたら、ぜひそのタイミングで取り入れてみてください。
はじめる時期、遊び方、知育効果アップのポイントなど
○主な効果
- 数の大きさ比較のパフォーマンスの向上
- カウントスキルの向上(10枚と5枚をまとめるカウント方略など)
- 差を求めるスキルの向上
○はじめる時期など
- 数字(1~10)を覚えたあと
- 数字の大きさを理解したあとも、カウントスキルや計算スキルの向上が期待できる。
○基本の遊び方
「戦争」に、なじみのない方もいるので、まずは、基本の遊び方を説明しておきます。
下記の説明が分かりにくい方は、「トランプ遊び 戦争」と検索して調べてみてください。
人数 | 2人から |
使用するカード | ジョーカーを除く52枚 3人の場合は1枚抜いて51枚にする。こうすると3等分できる 5人の場合は2枚抜いて50枚にする。こうすると5等分できる |
手順 |
①カードを裏側にして各プレイヤーに均等に配る。
②各プレイヤーは配られたカードを裏向きのまま重ねて自分の前にセットする。
③「せんそう!」、「せーの!」などのかけ声とともに、手札の一番上の1枚を表にしてて出す。
④一番強いカードを出したプレイヤーが、場に出たカードを総取りする。
カードの強さは、強い順に A,K,Q,J,10,9,8,7,6,5,4,3,2 ただし、Aは2だけに負ける、などのルールもある。 引き分けの場合は、そのプレイヤー同士がもう一度勝負し(勝負がつくまで繰り返す)、勝ったほうが場にある全てのカードをもらう。 ③④を繰り返す
⑤取ったカードは、適当なタイミングで、手札に加えることができる。
⑥プレイヤーの誰かの手札がなくなったらゲーム終了。一番多くのカードを持っていた人が勝ち。
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○遊び方の工夫(幼児用)
- 「神経衰弱」と同様に、ジャック、クイーン、キングを抜く。3人の場合はさらに1枚抜いて3等分できるようにする(39枚)。
- 「A」が「1」になっている知育用のトランプを使うと、純粋に数字だけで遊ぶことができる。
- 「A(1)が一番強い」、「2はA(1)だけに勝つ」などのルールが難しい場合は、カードの強さを単純に数字の大きさ順にする。
- 2人の場合は、取った手札を加えずに一巡で終了する。こうすると、短時間で遊ぶことができ、必ず枚数の比較が発生する。(一方のカードがなくなるまでやると、この作業は発生しない)
○知育効果アップのポイント
「神経衰弱」と同じように、枚数を数えるとき、10枚と5枚をまとめます。比べ方も同様です。
まとめ
幼児の数的発達は、「基数の理解」から「数字の大きさの理解」 、さらに「序数の理解」へと横断します。
子どもが基数を理解したあと、「神経衰弱」、「戦争」、「七並べ」を順次取り入れると、この一連の発達を効果的にサポートすることができます。
「神経衰弱」にしろ、「戦争」にしろ、ただ遊ぶだけでも子どもの数的発達に有益ですが、5と10を意識した枚数の数え方や比べ方は、その効果を格段にアップさせます。
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- Scalise, N. R., & Ramani, G. B. (2021). Symbolic magnitude understanding predicts preschoolers’ later addition skills. Journal of Cognition and Development. Advance online publication.
子どもの学びに関する多くの学術的知見を持っています。
また、6歳児から中高校生まで勉強を教えた経験があり、学力に与える学習の効果は、年齢が低いほど大きいことを痛感しています。
これらを生かして、効果的で再現性の高い子どもの学びのあり方や方法を提案していきます。よろしくお願いします。