幼児の算数:指を使って計算してもよい?

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ときどき「子どもが指を使って計算しているけど、そのままにしてよい?」、「計算で指を使ってよいのは何歳まで?」といった質問を受けます。 

この種の質問に対して、明確な答えを用意しました。

指はむしろ積極的に使ったほうがよい

指を使って計算してもよい? ─ この議論は、すでに答えが出ています。

指を使って数を処理することが、初期の数的発達に機能的な役割を果たしていることや、高度な計算を行う神経ネットワークの構築に貢献している可能性があることが、複数の研究によって示されているからです。(たとえば、01, 02, 03, 04

重要なのは、どう使うかです。

指を使って計算することのメリット

指の果たす主な機能的な役割としては、次のことがあげられます。

  • 指が数図の役割を果たし、初期の計数と計算の理解を助けます。結果として、数的発達が促されます。
  • 数の構成、すなわち全体と部分の関係の理解に役立ちます。
    たとえば、左右の手の指をそれぞれ5本と2本立てて「7」を表現すると、「7」と「5」と「2」の関係が指の構成から把握できます。
  • 片手で5、両手で10を表すことができるので、10進法の理解に適しています(5と10のまとまりを意識しやすい)。
  • 指が計算方略の進展をサポートします。
    幼児の計算方略は、数概念の発達とともに進展しますが、その方略に合わせた形で指を利用することができます。

指を使って計算方略の進展を促す

幼児期の高度な数え方や計算のスキルは、のちの算数の成績の強力な予測因子です。(たとえば、06, 07)

指を使って計算することの最大のメリットは、この計算方略の進展(高度化)を効果的に促せることにあります。

では、その具体的な例を見ていきましょう。

4に3を加える方略の例

※ たとえば、子どもの前で、カップにおはじきを4個入れ、そこに3個追加し、(カップの中を見せずに)カップの中のおはじきの個数を問います。

ステップ1:カウント・オール方略(3,4歳)
① 片方の手の指を4本立てる
② 3を加える操作として、もう一方の手の指を3本立てる
③ 立てている指を「いち、に、さん、よん、ご、ろく、なな」と数え上げる
ステップ2:数え足す方略(4,5歳)
① 片ほうの手の指を4本立てる(4をセットする)
② 3を加える操作として、同じ手の残りの指を立てて「ご」と言ってから、もう片ほうの手に移り、「ろく、なな」と数え足す
ステップ3:5のまとまりを意識した方略(5,6歳)
① 片ほうの手の指を4本立てる(4をセットする)
② 「まず、1つ足して」などと言って、同じ手の残りの指を1本立てて5本にする。
③ 「あと2つだから」などと言って、もう片ほうの手の指を2本立てる。
④ 5本と2本の指を見て「(5と2で)なな」と言う。

ステップ2からステップ3への導き方としては、ステップ2で「ご、ろく、なな」と数え足すときに、「、 ろく、なな」という具合に、「ご」を強調し(指の形も強調)、一拍置いてから「ろく」に移るようにします。

そうやって、5のまとまりを意識を向けさせます。

7から3を取り除く方略の例

※ たとえば、子どもの前で、カップにおはじきを7個入れ、そこから3個取り出し、(カップの中を見せずに)カップの中のおはじきの個数を問います。

ステップ1:カウント・オール方略(3,4歳)
① 左右の手で7を作る(5本と2本)
② 「いち、に、さん」と数えながら、指を3本折り畳む
③ 残っている指を「いち、に、さん、よん」と数え上げる
ステップ2:数え引く方略(4,5歳)
① 左右の手で7を作る(5本と2本)
② 「ろく、ご、よん」と言いながら指を折って3を数え引く。このとき、2本のほうから折り畳み、それから5本のほうに移る。
ステップ3:5のまとまりを意識した方略(5,6歳)
① 左右の手で7を作る(5本と2本)
② 「まず、3つ取るうちの2つを取って」などと言って、2本の指を折り畳み、片方の手だけで5を表す。
③ 続けて、「取るのはあと1つだから」などと言って、5本の指の1本を折り畳み、「よん」と言う。

ステップ2からステップ3への導き方としては、ステップ2で「ろく、ご、よん」と数え引くときに、「ろく、、 よん」という具合に、「ご」を強調し(指の形も強調)、一拍置いてから「よん」に移るようにします。

そうやって、5のまとまりを意識を向けさせます。

なお、5のまとまりが意識できるようになると、数体系の理解が進み、数の把握、操作が上手く行えるようになります。

また、就学後に学ぶ繰り上がりのあるたし算や繰り下がりのある引き算にも、対応しやすくなります。

指はいつまで使ってよいか?

このように、指は子どもの数的理解をサポートしますが、いつまで使ってよいのでしょうか?

指は10本しかありません。

扱う数は、だんだんと大きくなり、具体的なものの数から抽象的な数へと移っていきます。 

そうなってくると、しだいに指に頼ることができなってきます。

数的発達の順調な子どもは、幼児期こそ指を頼りに計算方略を進展させますが、就学期が近づくにつれて使用頻度を減らし、小学校の1年生、遅くとも2年生で心的な計算方略に移行します。(たとえば、01, 05)

なお、心的な計算方略への移行は、タイル操作などによってサポートすることができます。
これについては、(だいぶ先になると思いますが)別の記事で取り上げたいと思います。

まとめ

●幼児期の計算では、指を使うことが推奨される。

●指を使って計算することで、「5のまとまりを意識した方略」にスムーズに進展させることができる。

参考文献
  1. Jordan, N. C., Kaplan, D., Ramineni, C., & Locuniak, M. N. (2008). Development of number combination skill in the early school years: When do fingers help? Developmental Science, 11, 662-668.
  2. Crollen, V., & Noël, M.-P. (2015). The role of fingers in the development of counting and arithmetic skills. Acta Psychologica, 156, 37-44.
  3. Berteletti, I., & Booth, J. R. (2016). Finger representation and finger-based strategies in the acquisition of number meaning and arithmetic. In D. B. Berch, D. C. Geary, & K. Mann Koepke (Eds.), Development of mathematical cognition: Neural substrates and genetic influences (109–139). Elsevier Academic Press.
  4. Björklund, C., Kullberg, A., & Kempe, U. R. (2019). Structuring versus counting: critical ways of using fingers in subtraction. ZDM Math. Educ. 51, 13–24.
  5. Poletti, C., Krenger, M., Dupont-Boime, J., & Thevenot, C. (2022). The Evolution of Finger Counting between Kindergarten and Grade 2. Children, 9, 2, 132- 142.
  6. Watts, T. W., Duncan, G. J., Siegler, R. S., & Davis-Kean, P. E. (2014). What’s past is prologue: Relations between early mathematics knowledge and high school achievement.
  7. Nguyen, T., Watts, T. W., Duncan, G. J., Clements, D. H., Julie S. Sarama, J. S., Wolfe, C., & Spitler, M. E. (2016). Which Preschool Mathematics Competencies Are Most Predictive of Fifth Grade Achievement? Early Childhood Research Quarterly 36, 550-560.

すみりょう

子どもの学びに関する多くの学術的知見を持っています。
また、6歳児から中高校生まで勉強を教えた経験があり、学力に与える学習の効果は、年齢が低いほど大きいことを痛感しています。
これらを生かして、効果的で再現性の高い子どもの学びのあり方や方法を提案していきます。よろしくお願いします。

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