なぜ幼児期に空間認識能力を育むことが重要か?

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今回の記事のテーマは、幼児期に空間認識能力を育むことの重要性と、どうやって空間認識能力を育むかです。

子どもの将来の可能性を広げる話です。

「空間認識能力」って何?

「空間」とは、ものの形や大きさ(幅、高さ、奥行き)、傾き、位置関係などを包括的に表す言葉です。
空間の認識には様々な形態があり、たとえば、次のようなスキルが「空間認識能力」として定義されています。

メンタル・ローテーション(心的回転)

オブジェクトを回転させたときの像をイメージする。

【メンタル・ローテーション2Ⅾの例】

問➀ 上の図形と同じものは、次の4つのうちのどれか?

【メンタル・ローテーション3Ⅾの例】

問➁ 上の立体と異なるものは、次の4つのうちのどれか?

メンタル・フォールディング(心的折り畳み)

図形を折り畳んだあとの形状、図柄の配置などをイメージする。

【メンタル・フォールディング2Ⅾの例】

問➂ 上の図形を点線で折り畳んだものは、次の4つのうちのどれか?

【メンタル・フォールディング3Ⅾの例】

問➃ 上の立体を展開したものは、次の4つのうちのどれか? ただし、展開図の見えている面は、立体の外側の面とする。

ディス・エンベッディング(埋め込み図形の特定)

様々な形状が埋め込まれた図形の中から、特定の形状を識別する。

【ディス・エンベッディングの例】

問➄ 上の図形が埋め込まれている図形は、次の4つのうちのどれか?

空間スケーリング

空間のサイズを正確に拡大・縮小して表現する。

【空間スケーリングの例】

問➅ 上の図の2点の位置関係を正確に縮小したものは、次の4つのうちのどれか?

パースペクティブ・テイキング(視点の変換)

オブジェクトを異なる角度や方向から見たときの像をイメージする。

【パースペクティブ・テイキングの例】

問➆ 上のオブジェクトは、矢印の側から見るとどう見えるか?次の4つから選びなさい。

以上、いくつかの代表的な空間タスクを紹介しましたが、こういったタスクを遂行する能力を全部ひっくるめて「空間認識能力」と呼んでいます。

【答え】
(左から)➀ 4つ目 ➁ 3つ目 ➂ 1つ目 ➃ 4つ目 ➄ 1つ目 ➅ 3つ目 ➆ 3つ目

なぜ幼児期に空間認識能力を育むことが重要か?

幼児期に空間認識能力を育むことには、大きな意味があります。

というのも、幼児期から小学初期に培われた空間認識能力が、初期の算数の能力を有意に予測するからです。

たとえば、

  • 5歳でのブロック構築スキルは、7歳での算数のパフォーマンスを予測する。(01
  • 5歳でのメンタル・ローテーションを含む複合的な空間スキルは、8歳での概算のパフォーマンスを予測する。(02)
  • 就学前のメンタル・ローテーションと空間スケーリングのスキルは、小学2年生終りの算数の成績を予測する。(03)
  • 7歳でのメンタル・ローテーションを含む複合的な空間スキルは、10歳での算数の成績を予測する。(04)
  • 6歳から10歳の空間スケーリングとディス・エンベッディングのスキルは、数直線推定や標準的な算数のテストの成績を予測する。(05)

といった具合に、空間認識能力と算数の結びつきを示すエビデンスは、枚挙にいとまがありません。

それぐらい両者の関係は、強固で一貫しています。

さらに空間認識能力は、小学校や中学校の理科の成績を予測し、その先にあるSTEM(科学・技術・工学・数学)分野での適正や成功を予測します。(たとえば、06, 07, 08, 09)

幼児期に空間認識能力を養っておくことがどれほど重要か、おわかりいただけたのではないでしょうか。

なぜ空間認識能力は算数や理科のパフォーマンスと結びついているのか?

算数

空間認識能力が幾何学のみならず、カウンティング概算代数微積分など、数学の様々な領域とリンクしていることは、あまり知られていません。

事実、空間認識能力の高い子どもは、算数(数学)の様々な局面で数量をうまく扱うことができます。

たとえば、数直線をイメージして数値の大きさを理解する、頭の中でタイルを操作してたし算やひき算を行う、といった問題解決方法は、まさに空間表現に基づくものといえるでしょう。

ほかにも、

– 代数方程式の操作(たとえば、「4+□=11」を頭の中で「□=11-4」と置き換えて計算する)が、メンタル・ローテーション能力に関係していること
– 相対的なサイズや比率の理解が空間スケーリング能力に基づいていること
– 微積分のパフォーマンスに空間を視覚化する能力が強く関わっていること

などがいくつかの研究によって示されています。(たとえば、10, 11, 12, 13)

また、空間課題と数的課題の処理では、脳の同様の領域が活性化することがわかっており、これも空間認識能力と数学のリンクを主張する根拠となっています。(たとえば、14,15)

理科

空間認識能力が理科や科学技術の分野とリンクしているのは、これらの表現が模式図、設計図、図表、年表といった空間表現に多分に依存しているからだと考えられています。

生物学、物理学、化学、地学の複雑なプロセスやシステム、メカニズムを、これらの空間表現なしに理解しようとしたら、とても困難な作業になるでしょう。

ワトソンとクリックのDNA構造の発見、テスラの回転磁界の構想、アインシュタインの相対性理論の発想、フレミングの法則の考案などには、メンタル・ローテーションをはじめとする空間認識能力が大きく貢献したといわれています。

子どもの空間認識能力を伸ばすには

子どもの空間認識能力を伸ばす最も効果的な方法は、空間認識を必要とする遊びにできるだけ多く従事させることです。

空間認識を必要とする遊びとは、ブロックパズル折り紙遊びなどです。
(➔ 「空間認識能力の発達を促す主な遊びと玩具」)

これらの遊びの有効性については、すでに多くの研究で実証されています。(たとえば、16, 17, 18, 19

空間認識能力の発達をより効果的に促すポイントとしては、ブロックにしろ、パズルにしろ、子どもの能力よりも少し難しいものに挑戦させることです。(19

また、それらの遊びを通じて、親子で空間に関する会話ややりとりをたくさんすることも重要です。子どもの受け取る空間言葉の量が、空間認識能力の発達の程度を予測するからです。(たとえば、20, 21

空間言葉の種類
  • 形状を表す言葉: まる、さんかく、しかく、まんまる、ましかく、ひしがた
  • サイズを表す言葉: 大きい・小さい、高い・低い、長い・短い、太い・細い
  • 空間の状態を表す言葉: まっすぐ、斜め、カーブ、たいら、傾いている、逆さま
  • 空間の距離を表す言葉: 近い・遠い、くっついている、離れている、そばにある
  • 空間の位置・方向を表す言葉: 上・下、前・後、縦・横、表・裏、左・右、反対、真ん中、間、はし、かど
  • 空間の変換を表す言葉: 裏返す、横に向ける、回転させる、折り畳む、傾ける、離す

ブロックやパズルなどの遊びは、それ自体が子どもの空間能力の発達を促しますが、これに親からの空間言葉の入力が加わると、その効果はさらに強力になります。

より具体的な方法については、関連記事をご覧ください。↓↓↓

まとめ

●幼児期に空間認識能力を伸ばしておくと、就学後の算数や理科の学習で、大きなアドバンテージが得られる。

●それによって、STEM分野への扉が開かれる。また、職業的な選択肢も増える。つまり、将来の可能性が広がる。

●子どもの空間認識能力の発達に重要なのは、空間要素のある活動(遊び)をどれだけするか、親から空間言葉をどれだけ受け取るか、の二つである。

そもそも空間活動の機会は限られている。そのため子どもの空間認識能力は、この二つでほとんど決まってしまう。

参考文献
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  4. Carr, M., Alexeev, N., Lu, W., Barned, N., Horan, E., & Reed, A. (2017). The development of spatial skills in elementary school students. Child Dev. 89,446–460.
  5. Gilligan, K. A., Hodgkiss, A., Thomas, M. S. C., & Farran, E. K. (2018). The developmental relations between spatial cognition and mathematics in primary school children. Developmental Science, 22, e12786.
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  21. Polinsky, N., Perez, J., Grehl, M., & McCrink, K. (2017). Encouraging spatial talk: Using children’s museums to bolster spatial reasoning. Mind, Brain, and Education, 11(3), 144-152.
すみりょう

子どもの学びに関する多くの学術的知見を持っています。
また、6歳児から中高校生まで勉強を教えた経験があり、学力に与える学習の効果は、年齢が低いほど大きいことを痛感しています。
これらを生かして、効果的で再現性の高い子どもの学びのあり方や方法を提案していきます。よろしくお願いします。

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