この記事は、次の3つの内容を含みます。
・パズル遊びの重要性
・知育効果の高いパズルはどれか?
・その効果を最大化する遊び方
パズルでよく遊ぶ子どもは空間認識能力が高い
パズル遊びは、ブロック遊びとともに、子どもの空間認識能力の発達を促す優れた遊びです。
ブロック遊びとの違いは、パズルの種類にもよりますが、大きくは、2次元か3次元かの違いです。
遊びに必要な空間認識の領域が少し異なります。
「パズルでよく遊ぶ子どもは空間認識能力が高い」、「パズルを使ったトレーニングによって子どもの空間スキルが向上した」といったエビデンスは数多くあります。(たとえば、01, 02, 03, 04)
空間スキルといってもいろいろありますが、たとえば、パズル遊びは次のような空間変換タスクのスコアを向上させます。
【空間変換タスクの例】
上記のタスクを行うには、頭の中で図形を回転・平行移動させる必要があります。
このような操作や図形の像をイメージする能力が、空間認識能力です。
数学の成績やSTEM適性に直結する能力なので、幼児期にぜひ身につけておきたいところです。
この記事では、多くの研究者が注目している知育効果の高いパズルを取り上げ、その効果的な遊び方について解説していきます。
なお一般論として、パズルには集中力、巧緻性、自己肯定感などを向上させる効果があるといわれていますが、パズル特有の効果ではないので、本記事では省略します。
「空間認識能力」については、こちらの記事をご覧ください。 ↓↓↓
【空間変換タスクの答え】
空間認識能力の向上に効果の高いパズル遊びとは
ところで、ひと口にパズルといっても、ジグソーパズルからペグボードパズル、タングラムまで、さまざまなタイプのものがあり、どのようなパズルを選べばよいか迷ってしまいます。
これまでの知見を総合すると、どのタイプのパズルでも、空間認識能力の向上に一定の効果があるようです。
その中でも、複数の研究によってその効果が確認され、多くの研究者や教育者が推奨しているのがタングラムです。(たとえば、03, 04, 05, 06)
タングラムにもいくつかのタイプがありますが、空間認識能力への高い効果から、アメリカの多くの教育現場に取り入れられているのが、「パターンブロック」です。
「ブロック」と名がついていますが、メインの機能はパズルです(厚みがあるので三次元の構築もできます)。
パターンブロックに期待できる効果
パターンブロックは、三角形や四角形、ひし形などの幾何学形状のピースを組み合わせていろいろな形を作るパズルです。
タスクカードに描かれた絵の形を作るストラクチャード・プレイと自由に創作するフリー・プレイの二つの遊び方があります。
パターンブロックに期待できる効果としては、
- 幾何学的な形状を組み合わせて様々な形をつくるので、図形の合成・分解の理解が深められる。
たとえば、「同じ三角形を2つ合わせると、四角形(平行四辺形)ができる」など - 向きを考えながらピースを合わせていくので、メンタル・ローテーション(2D)能力が鍛えられる。
- 幾何学的な形状を埋め込んでいくので、ディス・エンベッディング(埋め込み図形を特定する)能力が鍛えられる。
- 小さな子どもの場合は、大人と一緒に遊ぶことで、図形の種類が覚えられる。
- 数を取り上げることで、数的能力の向上を促すことができる。
たとえば、「正三角形を6つ合わせると正六角形になる」、「使う三角形は6つ(タスクカードに明記)、今4つだからあと2つ」など
といった具合に、空間や数に関して多くの効果が期待できます。
また、完成形が一つではなく、いろいろなものを作れるので、一つのセットで長い期間遊べるというメリットもあります。
パターンブロックの効果を最大限に引き出す遊び方
パターンブロックの空間認識能力への効果を最大化するには、遊びの頻度もさることながら、質を高めることが重要です。
そのために、タスクカード(パターンカード)の使用は必須です。
ブロックの記事で解説していますが、空間遊びでは、自由創作(フリー・プレイ)よりも目標指向の構築(ストラクチャード・プレイ)のほうが、空間認識能力を高める効果がはるかに高いからです。
タスクカードを利用すれば、3~4歳から効果的な空間遊びができます。
もちろん、自由創作も有益な遊びでなので、それはそれでどんどんやればよいと思います。
もう一つ重要なのは、パズル(タスク)の難易度と親の空間言葉の質と量です。
難易度 ─ その子どもにとって容易なタスクは、空間認識能力への効果がほとんど期待できません。(07, 08)
空間言葉 ─ 4歳ぐらいでは、親から発せられる空間言葉の質と量が空間能力の発達に大きく影響することがわかっています。(09, 10)
したがって、パズル遊びでは(他の空間遊びも同じですが)、難易度を段階的に上げていくこと、親が子どもの遊びをしっかりとサポートすることが重要になります。
パターンブロックは何歳から始めるのがよい?
パターンブロックは、早ければ3歳ぐらいから始められます。
空間認識能力の発達のし方や伸びやすい時期を考えると、3~4歳で初めて、最盛期を5~6歳にもっていく(= この時期に難しいタスクにたくさん挑戦する)のが効果的ではないかと思われます。
もちろん、空間認識能力は7歳以降でも鍛えることはできます。
おすすめのパズルとタスクカード
パターンブロックは、250ピースの基本のセットを持っておけば、どんなタスクカードにも対応できます。また、二人以上で遊ぶこともできます。
タスクカードは、一つだけ揃えるなら、「構成力をのばすパターンブロックタスクカード」がよいでしょう。全体を通して、タスクの難易度が少しずつアップしていくこと、また幾何学の基礎が学べるのがポイントです。
構成力をのばすパターンブロックタスクカード
ステップ1からステップ5で構成されます。1、2、3、4と難しくなり(5は空間の次元が異なる)、同じステップ内でも難易度が少しづつ上がっていくので、空間スキルを鍛えるには最適です。3歳半ぐらいから始められます。
ステップ1(カラー):
ピースを組み合わせてお花やお家、動物などの形を作ります。
前半:描かれている絵にピースの形が示されているので、そこにピースを置いて絵の形にします。
後半:描かれている絵の一部分はピースの形が示されていません(外枠だけが示されています)。使用するピースの種類と数(たとえば、三角が6個、四角が4個、…)が示されているので、それを頼りに描かれている絵の形をつくります。
ステップ2(モノクロ):
ピースを組み合わせて幾何学的な図形を合成します(たとえば、三角形のピース4つを組み合わせて大きい三角形をつくる)
ステップ3(モノクロ):
指定された種類と数のピースを使い、枠だけ描かれた形を作ります。
ステップ4(モノクロ):
ステップ3の難易度をアップさせたバージョンです。後半は、線対称や点対称の絵(図形)を扱います。対称の絵の半分にだけ、ピースの形が示されています。
ステップ5(モノクロ):
ピースを立体的に積み上げて、描かれた形を作ります。ストラクチャード・ブロック・プレイのバリエーションです。
課題解決能力をきわめるパターンブロックタスクカード
この本には、算数にとって重要なスキルを鍛えるタスクがもりこまれています。
パズルの複雑さは、「構成力をのばす」のステップ1と同程度ですが、タスクを実行するために、パターン認識、作業記憶、図形の合成・埋め込み、対称・鏡像・回転図形の認識、視点の変換などのスキルが必要になります。一つの空間遊びで、これだけのものを網羅できるものは、そうそうありません。かなりの良書といえます。
適年齢は4歳から5歳前期ぐらいでしょうか。「構成力をのばす」のステップ1、2のあとにこれを挟んでもよいし、並行してやってもよいです。
構成力が身につくはじめてのパターンブロックタスクカード
テーマ別(食べ物や動物など)のタスクが53種類収録されています。
難易度は「構成力をのばす」のステップ1と同程度です。
オールカラーでより楽しく遊べるようになっています。実際に、子どもの食いつきは、こちらのほうが良いようです。
「構成力をのばす」が順調に進むのであれば、特に必要というものではありませんが、ステップ1を補強したい場合、子どもがもっとやりたいという場合にはおすすめです。また、ステップ1の代わりに、こちらからはじめるという手もあります。
まとめ
●パズル遊びは、ブロック遊びと並んで、空間認識能力を高める効果が高い。この2つで、主要な空間領域のかなりの部分をカバーできる。
●中でも、パターンブロックは、空間認識能力を高める効果が大きい。一つのセットで、さまざまなものがつくれるので、空間認識能力を鍛えるのに最適である。
●効果的な遊び方は、タスクカードを使うこと、少しづつ難易度をあげていくこと、親が遊びをサポートすること、の三つです。
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子どもの学びに関する多くの学術的知見を持っています。
また、6歳児から中高校生まで勉強を教えた経験があり、学力に与える学習の効果は、年齢が低いほど大きいことを痛感しています。
これらを生かして、効果的で再現性の高い子どもの学びのあり方や方法を提案していきます。よろしくお願いします。